Maxwell電磁気学の理論体系
前回の記事で見たように時間変動しない静電場、静磁場を扱う上では、Maxwell方程式はそれぞれを表す2つずつの連立方程式に分解できた。一方で、時間変動する電磁場を取り扱うことによって、変位電流と電磁誘導の寄与が現れ複雑な振る舞いを示すようになる。これによって、4つのMaxwell方程式は全体が連立非線形微分方程式系となるのである。本記事では、Maxwell方程式を基本方程式とした電磁気学の理論体系について改めて整理する。
未知数と方程式数の勘定
\begin{align}
&\nabla\cdot\bm{D}(\bm{x},t) =\rho_\mathrm{e}(\bm{x}),\label{eq: maxwell1_inChapMaxwell}\\
&\nabla\times\bm{E}(\bm{x},t)+\del{\bm{B}(\bm{x},t)}{t} =\bm{0},\label{eq: maxwell2_inChapMaxwell}\\
&\nabla\cdot\bm{B}(\bm{x},t)=0,\label{eq: maxwell3_inChapMaxwell}\\
&\nabla \times \bm{H}(\bm{x}, t)-\del{\bm{D}(\bm{x},t)}{t}=\bm{i}_\mathrm{e}(\bm x, t).\label{eq: maxwell4_inChapMaxwell}
\end{align}
Maxwell方程式は見かけ上は4つの方程式であるが、うち2つはベクトルで表現されているため3次元空間の各成分に分解すると合計8つの方程式から構成されている。しかし、これらの方程式によって決定される場は、電場$\bm{E}$と磁場$\bm{B}$の3次元ベクトルであるから、未知数は6つのみである。
より一般には$\bm{D}$と$\bm{E}$、$\bm{B}$と$\bm{H}$をつなぐ関係がないとすれば12個の未知数がある。しかし、我々が通常考えるのは$\bm{D}=\varepsilon \bm{E}$と$\bm{B}=\mu\bm{H}$が成り立つ物質であるため、この関係を仮定している。ただし、この線形の関係がなくても何らかの形で関係性があるはずであるから、ほとんど一般的に真の未知数は6つであると考えてよい。
これは実際に場の時間発展を記述するのは回転を含む式\eqref{eq: maxwell2_inChapMaxwell}と式\eqref{eq: maxwell4_inChapMaxwell}の方程式6つのみであり、残りの発散を含む式\eqref{eq: maxwell1_inChapMaxwell}と式\eqref{eq: maxwell3_inChapMaxwell}の2つの方程式は初期条件を与えるために必要である。
それを確かめるために、まず式\eqref{eq: maxwell4_inChapMaxwell}の両辺の発散をとると、
\begin{align}
\nabla\cdot(\nabla\times\bm{H}(\bm{x},t))-\del{}{t}\nabla\cdot\bm{D}(\bm{x},t)=\nabla\cdot\bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x}) \end{align}
となる。左辺の第1項はベクトル恒等式により0である。また、右辺は電荷保存則により、$\nabla\cdot\bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x}, t)=-\del{\rho_\mathrm{e}(\bm{x}, t)}{t}$である。よって、
\begin{align}
\left.\left.\del{}{t}\right(\nabla\cdot\bm{D}(\bm{x},t)-\rho_\mathrm{e}(\bm{x}, t)\right)=0
\end{align}
の関係が成り立つ。これに対して、初期条件として
\begin{align}
\nabla\cdot\bm{D}(\bm{x},t)-\rho_\mathrm{e}(\bm{x}, t)=0
\end{align}
を与えるのが式\eqref{eq: maxwell1_inChapMaxwell}と見ることができる。
同様に、式\eqref{eq: maxwell2_inChapMaxwell}の両辺の発散をとると、
\begin{align}
\nabla\cdot(\nabla\times\bm{E}(\bm{x},t))+\del{}{t}\nabla\cdot\bm{B}(\bm{x},t)=0
\end{align}
となる。左辺の第1項はベクトル恒等式により0である。よって、
\begin{align}
\left.\left.\del{}{t}\right(\nabla\cdot\bm{B}(\bm{x},t)\right)=0
\end{align}
の関係が成り立つ。これに対して、初期条件として
\begin{align}
\nabla\cdot\bm{B}(\bm{x},t)=0
\end{align}
を与えるのが式\eqref{eq: maxwell3_inChapMaxwell}である。
ちなみに、これらの導出過程を思い出すと、初期条件にあたる法則は静電場および静磁場の考察から得られたものである。静電場、静磁場において成り立つ関係であれば、上で示したように時間に依存しない関係であるから過去でも未来でも成り立つということである。ここにきて、式\eqref{eq: maxwell1_inChapMaxwell}と式\eqref{eq: maxwell3_inChapMaxwell}によって、静電磁場の法則を時間発展する場合に自然に拡張したことが正当化された。
Ohm抵抗
定常電流の記事で、(起電力がある場合の)Ohmの法則が実験的に得られることを紹介した:
\begin{align}
\bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x},t)=\sigma\left[\bm{E}(\bm{x})+\bm{E}^\mathrm{ex}(\bm{x},t)\right]. \end{align}
これは、実はMaxwellとは独立した法則である。なぜなら、これは必ず成立する法則ではなく、現象論的に多くの物質で成り立つ法則だからである。時間変動する場合にもこの現象論的な性質は交流の周波数が小さいときに限れば成立する。また、電磁誘導の記事から、起電力を表す外部電場は磁場を用いて表せるから、 \begin{align} \bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x},t)=\sigma\left[\bm{E}(\bm{x})+\bm{v}\times\bm{B}(\bm{x},t)\right]\label{eq: Ohm_Lorenz_eom}
\end{align}
のように書ける。
この法則が成り立つ物質のことをOhm抵抗といい、逆にこれに従わない物質を非Ohm抵抗という。
電磁場中の荷電粒子の運動方程式
さて、Maxwell方程式によって電磁場の時間発展を記述できることは分かったが、電磁場中の点電荷の運動の記述方法について考えよう。これについては、Lorentz力により、質量$m$、電荷$q$の点電荷の運動方程式は、
\begin{align}
m\ddif{\bm{x}}{t}=q\left[\bm{E}(\bm{x})+\bm{v} \times \bm{B}(\bm{x})\right]
\end{align}
と表せる。
すなわち、Maxwell方程式によって電磁場の時間発展が決まれば、それによって電磁場中の荷電粒子の運動方程式は上式で記述可能である。また、これは式\eqref{eq: Ohm_Lorenz_eom}のOhmの法則と非常によく似ている。実際、$\bm{i}=\rho\bm{v}$と書けるから、慣性質量$m$を用いて$\sigma=1/m$として表現したものがOhmの法則であるとみなせる。
現象論的物理定数
Maxwell方程式とLorentz力によって、非常に美しく電磁気現象を説明できるような気がするが、これらは現象論的な記述であることに注意されたい。これまでの説明でもたびたび出てきたように現象論的な性質が利用されているからである。例えば、誘電率$\varepsilon$や透磁率$\mu$、さらにOhmの法則において電気伝導率を表す$\sigma$である。これはすなわち、真電荷$\rho_\mathrm{e}$と伝導電流$\bm{i}_\mathrm{e}$以外による寄与は分極ベクトル$\bm{P}$と磁化ベクトル$\bm{M}$に吸収させて、誘電率$\varepsilon$と透磁率$\mu$に押し付けている。さらに、Ohmの法則の電気伝導率$\sigma$についても、運動方程式における慣性質量を表す物理定数として抵抗の寄与を押し付けている。
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