3-7 磁性体

物理学

磁性体

静電場の際は、誘電体を考えて電束密度というものが定義された。静磁場の場合は、磁性体を考えることで磁束密度について考える。先に結論を述べると、実はこれまで扱ってきた磁場$\bm{B}$が磁束密度である。
磁荷がないことは$\nabla\cdot\bm{B}=0$から自然法則で決まっており、そのためこれまで見てきたように電流を用いて記述してきた。この違いによって、電束密度と磁束密度の現れ方に違いが生じている。
こうした議論から、電場と磁場を比較し、次の記事でようやく$\bm{E}$-$\bm{B}$対応について論じることができる。

磁化

静電場の場合には物質に電場を与えることによって、分極が生じ電場を弱めることが分かった。静磁場の場合には、物質に磁場を与えることによって、磁場が強められる常磁性体と、逆に磁場が弱められる反磁性体というものがある。常磁性体の中でも、鉄やニッケルなどの特に磁場を強める効果が大きい物質は強磁性体という。
静磁場の基本法則、$\nabla\cdot\bm{B}=0$が示す通り磁場には磁荷が存在しないため、このような性質を説明するには電流を用いる必要がある。現代的な視点でいえば、それは原子中の電子のスピンの磁場中の振る舞いによって説明できる。一方で、ここでは古典電磁気学のみ扱うため、スピンではなく回転する微小な分子電流を考える。ここで登場する磁気双極子モーメントなどの概念を理解しないと、量子論におけるスピンが持つ磁気モーメントを理解するのが難しいはずである。

この分子電流を用いた考え方は、当時Ampèreが生み出したものである。
当時知られていた現象として、ソレノイドの中に鉄を詰め込むと内部の磁場が増大するというものがあった。これを説明するために、微小な円形電流がランダムな方向を向いて原子中に存在していると考えたのである。この状態で、ソレノイドに電流を流すことによって、ソレノイド内部に磁場が生じ、そのときに分子電流がAmpèreの力を受けることで方向が揃う。また、その分子電流の向きは磁場に対して右ねじの方向である。このことは本記事内であとに示す。これを認めると、ソレノイドに流した電流(これを伝導電流という)によって揃った分子電流は、伝導電流と同じ向きで回転している。つまり、これらの分子電流がまた磁場をつくりだし、ソレノイドの磁場を増大させるのである。この現象を物質の磁化という。

次は、以上の説明の中で省いた分子電流ないしは円形電流にトルクが働いて、揃う現象を説明する。

円形電流に一様磁場が与えるトルク (常磁性体、強磁性体の原理)

図のような円形電流が一様な静磁場中にあるときに受けるAmpèreの力を考える。左上の投影図は磁場中の円形電流を左側すなわち正面から見たときの図である。円形電流の面は磁場に垂直な面から角度$\theta$だけ傾いているとする。このとき、円形電流の上に張った座標で$(a\,\cos\phi,a\,\sin\phi)$の位置の微小電流に働く力を考える。Ampèreの力から、
\begin{align}
\dd\bm{F}_\mathrm{total}=\bm{I}\dd\bm{s}\times\bm{B}
\end{align}
で与えられる。このとき、磁場の成分は円形電流と同じ面上の磁場成分$B\,\sin\theta$と、それに垂直な磁場成分$B\,\cos\theta$に分けられる。$B\,\cos\theta$による力は円形電流の動径方向の外向きの力であり、これは円形電流の全周上で同じ力であるため釣り合う。一方で、$B\,\sin\theta$による力は、$\dd\bm{F}$とすると、図に示したように微小電流が流れる面を磁場に垂直にする方向に力が働く。
この力の大きさ$\dd F$は、電流と磁場のなす角が$\pi-\phi$であるから、
\begin{align}
\dd F=I\,\dd s\,B\sin\theta\,\sin\left(\pi-\phi\right)=I B\sin\theta\,\sin\phi\,\dd s
\end{align}
と書ける。

また、先ほど考えた位置から$\phi\to\phi+\pi$とした反対側に受ける力$\dd\bm{F}’$を考えると、
\begin{align}
\dd\bm{F}’=\bm{I}\dd\bm{s}\times\bm{B}=-\dd\bm{F}
\end{align}
を得る。
電流の大きさと磁場の大きさは変わらないが、今回は側面図において裏側にある部分の電流が力を受けることになるため電流の向きが反転している。そのため、$\dd\bm{F}’$は力の大きさが$\dd\bm{F}$と等しく、逆向きの力になっている。すなわち、こちらもやはり円形電流が流れる面を磁場に垂直にする方向に力が働くことになる。ちなみに、動径方向の力を合わせても$\dd\bm{F}’_\mathrm{total}=-\dd\bm{F}_\mathrm{total}$と書ける。

最後に、この力が円形電流に与えるトルク、$\dd \bm{N}=\bm{r}\times\dd\bm{F}$を考える。
\begin{align}
\dd N= (a\,\sin\phi)\cdot I B\sin\theta\,\sin\phi\,\dd s=aIB\,\sin\theta\,\sin^2\phi\,\dd s.
\end{align}
これを円形電流の全周にわたって積分すればよいので、$\dd s=a\,\dd\phi$とした上で$\phi:\,0\to2\pi$で積分を行う。
\begin{align}
N=\int\dd N&=\int_0^{2\pi} aIB\,\sin\theta\,\sin^2\phi\, a\dd\phi\nonumber\\
&=a^2IB\sin\theta\left[\frac{\phi}{2}+\frac{1}{4}\cos2\phi\right]_0^{2\pi}\nonumber\\
&=IB\pi a^2\sin\theta=IBS\sin\theta
\end{align}
ただし、最後に円形電流に囲まれる面積$S=\pi a^2$を用いて半径$a$を消去した。

このトルクが働き続けるため、いずれは円形電流の面が磁場と垂直になる。
また、円形電流がつくる磁場の向きが、元々あった一様磁場の向きと等しい。すなわち、一様磁場を円形電流によってつくっているとすれば、その向きといま考えていた円形電流の向きが等しいことを意味する。前節の分子電流の話に戻すと、伝導電流と分子電流の回転の向きが等しいことを意味している。この現象によって、常磁性体と強磁性体を示す物質が存在する。

一方で、反磁性体の原理は時間変動する電磁場の現象であるため、ここではまだ取り扱えない。

電気双極子と磁気双極子

次に、磁荷が存在しない磁場を電流によって記述してきたことを、電場と比較して振り返る。以前の記事で静電ポテンシャルの多重極展開を行うことによって、単極子、双極子、四重極子の寄与を見た。電場の場合には、$\nabla\cdot\bm{E}=\rho/\varepsilon_0$により単極子である電荷が存在した。一方で磁場の場合には$\nabla\cdot\bm{B}=0$によって磁荷が存在しないために、次に単純な構造は磁気双極子である。つまり、電場と磁場を比較するには、まず電気双極子と磁気双極子で比較するべきである。

補足

そもそも磁荷が存在しないのであれば、磁気双極子というものもあくまで仮想的なものである。

磁気双極子は、良く知っている棒磁石を想像すればよいだろう。ただし、我々はいままで磁石ではなく電流によって記述してきたので、これは棒磁石ではなく円形電流と考えるべきである。円形電流がつくる磁場については、別の記事でBiot-Savartの法則の例題として取り扱って導出した。円形電流をつくると中心に磁場をつくり、その表式は次のように書けることを知っている。

\begin{align}
\bm{B}(0,0,z)=\frac{\mu_0I}{2}\frac{a^2}{(a^2+z^2)^{3/2}}\,\bm{e}_z.\label{eq: B_ex_circle_z}
\end{align}

この考察に基づいて、まずは電気双極子がつくる電場と磁気双極子がつくる磁場を比較する。

電気双極子がつくる電場

ここは、静電場の復習であるから理解している場合は結果のみ参照されたい。

電気双極子がつくる電場

$z$軸上に距離$s$だけ離れた電荷$+q,-q$が原点対称に置かれている場合に、これが位置$\bm{r}\ (r\gg s)$につくる電場は球面座標系において次のように書ける。
\begin{align}
E_r &= \frac{2p}{4\pi \varepsilon_0}\frac{\cos\theta}{r^3},\label{eq: edipole_Er}\\
E_\theta &= \frac{p}{4\pi \varepsilon_0}\frac{\sin\theta}{r^3}.\label{eq: edipole_Eth}
\end{align}
ただし、$\bm{p}:=q\bm{s}$は以前の記事で導入した電気双極子モーメントである。
また、
\begin{align}
\bm{E}(\bm{r})=E_r\bm{e}r+E\theta\bm{e}\theta=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\left[-\frac{\bm{p}}{r^3}+\frac{3\bm{r}(\bm{r}\cdot\bm{p})}{r^5}\right] \end{align} であり、こちらも静電場の場合に得られた結果に一致する。

まず、与えられた位置情報から静電ポテンシャルは次のように書ける。

\begin{align} \phi(\bm{r})&=\frac{q}{4\pi \varepsilon_0}\left[\left(r^2+(s/2)^2-rs\,\cos\theta\right)^{-1/2}-\left(r^2+(s/2)^2+rs\,\cos\theta\right)^{-1/2}\right]\nonumber\\
&=\frac{q}{4\pi \varepsilon_0r}\left[\left(1+\frac{1}{2}\left(\frac{s}{r}\right)\,\cos\theta+\mathcal{O}\left(\frac{s^2}{r^2}\right)\right)-\left(1-\frac{1}{2}\left(\frac{s}{r}\right)+\mathcal{O}\left(\frac{s^2}{r^2}\right)\right)\right]\nonumber\\
&\simeq\frac{qs}{4\pi \varepsilon_0}\frac{\cos\theta}{r^2}. \end{align}

球面座標系における微分演算子$\nabla$は、

\begin{align} \nabla=\bm{e}_r\del{}{r}+\bm{e}_\theta \frac{1}{r}\del{}{\theta}+\bm{e}_\theta\del{}{r\,\sin\theta}\del{}{\phi}. \end{align}

と表せるから、電場を求めると、 \begin{align} E_r &=-\del{\phi}{r}=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\frac{2p\,\cos\theta}{r^3},\\ E_\theta &=-\frac{1}{r}\del{\phi}{\theta}=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\frac{p\,\sin\theta}{r^3}
\end{align}
となり、表式を得る。ただし、$p=qs$である。

また、電気双極子モーメントと同じ向きの単位ベクトル$\bm{e}_\mathrm{p}$と、球面座標系の単位ベクトルの関係は、 \begin{align} \bm{e}_\mathrm{p}:=\frac{\bm{p}}{p}=\bm{e}_r \,\cos\theta-\bm{e}_\theta\,\cos\left(\frac{\pi}{2}-\theta\right)
\end{align}
と表せる。よって、
\begin{align}
\bm{e}_r &= \frac{\bm{r}}{r},\\ \bm{e}_\theta &= \bm{e}_r\frac{1}{\tan\theta}-\frac{\bm{p}}{p}\frac{1}{\sin\theta} \end{align} であるから、

\begin{align} \bm{E}(\bm{r})=E_r\bm{e}_r+E_\theta\bm{e}_\theta=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\left[-\frac{\bm{p}}{r^3}+\frac{3\bm{r}(\bm{r}\cdot\bm{p})}{r^5}\right]\label{eq: ele_dipole_E}
\end{align}
を得る。

円形電流(磁気双極子)がつくる磁場

続いて、磁気双極子の場合について考えたいのだが、磁場の場合は電流に基づいて考えるべきなので円形電流がつくる磁場を考えることにする。

円形電流がつくる電場

$xy$平面上に置かれた半径$a$の円形電流$I$の中心を$z$軸にとる。これが位置$\bm{r}\ (r\gg a)$につくる磁場は球面座標系において次のように書ける。
\begin{align}
B_r &= \frac{2\mu_0SI}{4\pi}\frac{\cos\theta}{r^3},\label{eq: mdipole_Br}\\
B_\theta &= \frac{\mu_0SI}{4\pi}\frac{\sin\theta}{r^3}.\label{eq: mdipole_Bth}
\end{align}
ただし、$S=\pi a^2$により円形電流に囲まれる面積$S$を用いて表した。


静電場のときに静電ポテンシャルを用いたのと同様に、こちらはベクトルポテンシャルから求めるのが簡単である。
ベクトルポテンシャルの表式にしたがって、
\begin{align}
\bm{A}=\frac{\mu_0I}{4\pi}\oint \frac{\dd \bm{s}}{|\bm{r}-\bm{s}|}
\end{align}
と書ける。ここで、円形電流の1周にわたる線積分の結果は、球面座標系においては$\phi$方向の成分しか残らない。これは球面座標系で考えていると自明ではない。しかし、円筒座標系$(R,\phi,z)$で考えてみると分かりやすい。まず、$\phi$方向は共通であるため積分の結果は有限の値をもつ。$z$方向は円形電流が$xy$平面上にあるためゼロである。そして、$R$方向については電流の向きが1周積分の間にちょうど反対称になるため相殺されてゼロになる。以上の考察から、円筒座標系においては$A_R=A_z=0$である。球面座標系に戻ると、$A_r, A_\theta$は$A_R,A_z$に回転行列を作用させて表すことができるため、$A_r=A_\theta=0$である。

よって、
\begin{align}
\bm{A}=A_\phi \bm{e}\phi = \frac{\mu_0I}{4\pi}\oint \frac{\dd s_\phi\,\bm{e}_\phi}{|\bm{r}-\bm{s}|} \end{align} と書ける。 ここで、

\begin{align} |\bm{r}-\bm{s}|&=\sqrt{\left((r\,\sin\theta)^2+a^2-2ar\,\sin\theta\cos(\phi-\phi’)\right)+(r\,\cos\theta)^2}\nonumber\\
&=\sqrt{r^2+a^2-2ar\,\sin\theta\cos(\phi-\phi’)}
\end{align}

である。ここで$\dd s_\phi=a\,\cos(\phi-\phi’)\,\dd\phi’$であり、さらに$r\gg a$を念頭に計算を進めると、
\begin{align}
A_\phi
&=\frac{\mu_0 Ia}{4\pi r} \int_0^{2\pi} \left(1+\left(\frac{a}{r}\right)\sin\theta\cos(\phi-\phi’)+\mathcal{O}\left(\frac{a^2}{r^2}\right)\right) \cos(\phi-\phi’)\,\dd\phi’\nonumber\\
&\simeq\frac{\mu_0Ia}{4\pi r} \left[-\sin(\phi-\phi’)+\frac{a}{r}\sin\theta\left(\frac{\phi’-\frac{1}{2}\sin{2(\phi-\phi’)}}{2}\right)\right]_0^{2\pi}\nonumber\\
&=\frac{\mu_0 I\pi a^2}{4\pi}\frac{\sin\theta}{r^2}
\end{align}
を得る。ここまでで、ベクトルポテンシャルは得られたので次は回転(rot)をとることにより磁場ベクトルを求める。

\begin{align}
\bm{B}&=\nabla\times\bm{A}\nonumber\\
&=\left(\bm{e}_r\del{}{r}+\bm{e}_\theta \frac{1}{r}\del{}{\theta}+\bm{e}_\theta\del{}{r\,\sin\theta}\del{}{\phi}\right)\times A_\phi\bm{e}_\phi\nonumber\\
&=-\bm{e}_\theta\left(\del{A_\phi}{r}\right)+\bm{e}_r\left(\frac{1}{r}\del{A_\phi}{\theta}\right)+\bm{e}_\theta\left(\frac{1}{r\sin\theta}A_\phi(-\sin\theta)\right)+\bm{e}_r \left(\frac{1}{r\sin\theta}A_\phi\cos\theta\right)\nonumber\\
&=\bm{e}_r \left(\frac{1}{r}\del{A_\phi}{\theta}+\frac{A_\phi\cos\theta}{r\sin\theta}\right)+\bm{e}_\theta\left(-\del{A_\phi}{r}-\frac{A_\phi}{r}\right)\nonumber\\
&=:B_r\bm{e}_r+B_\theta\bm{e}_\theta. \end{align}

ただし、上記の計算過程では、球面座標系の単位ベクトルの性質:

\begin{align} \bm{e}_r\times \bm{e}_\theta = \bm{e}_\phi,\quad\del{}{r}\bm{e}_\phi=\del{}{\theta}\bm{e}_\phi=0,\quad\del{}{\phi}\bm{e}_\phi=-\sin\theta\,\bm{e}_r-\cos\theta\,\bm{e}_\theta
\end{align}
を用いた。

まず$B_r$について計算すると、
\begin{align}
B_r &= \frac{1}{r}\del{A_\phi}{\theta}+\frac{A_\phi\cos\theta}{r\sin\theta}\nonumber\\
&=\frac{\mu_0 I\pi a^2}{4\pi}\frac{\cos\theta}{r^3}+\frac{\mu_0 I\pi a^2}{4\pi}\frac{\cos\theta}{r^3}\nonumber\\
&=\frac{2\mu_0 I\pi a^2}{4\pi}\frac{\cos\theta}{r^3}
\end{align}
となり表式を得る。

また、$B_\theta$について計算すると、
\begin{align}
B_\theta&=-\del{A_\phi}{r}-\frac{A_\phi}{r}\nonumber\\
&=\frac{2\mu_0 I\pi a^2}{4\pi}\frac{\sin\theta}{r^3}-\frac{\mu_0 I\pi a^2}{4\pi}\frac{\sin\theta}{r^3}\nonumber\\
&=\frac{\mu_0 I\pi a^2}{4\pi}\frac{\sin\theta}{r^3}
\end{align}
となり表式を得る。ただし、表式では$S=\pi a^2$を用いている。この置き換えには意味があり、実は円形電流に限らず任意の形状の閉じた電流について、その囲む面積を$S$とすると同じ表式になる。

また、円形電流の軸方向すなわち$z$軸の上を向いたベクトル$\bm{n}$を導入すると、電気双極子のときの$\bm{e}_\mathrm{p}\Leftrightarrow \bm{n}$とみなすことで全く同じ対応関係になり、 \begin{align} \bm{n}=\bm{e}_r \,\cos\theta-\bm{e}_\theta\,\cos\left(\frac{\pi}{2}-\theta\right)
\end{align}
と表せる。よって、
\begin{align}
\bm{e}_\theta &= \bm{e}_r\frac{1}{\tan\theta}-\bm{n}\frac{1}{\sin\theta} \end{align} であるから、 \begin{align} \bm{B}(\bm{r})=B_r\bm{e}_r+B_\theta\bm{e}_\theta=\frac{\mu_0SI}{4\pi}\left[-\frac{\bm{n}}{r^3}+\frac{3\bm{r}(\bm{r}\cdot\bm{n})}{r^5}\right]\label{eq: mag_dipole_B}
\end{align}
を得る。式\eqref{eq: ele_dipole_E}と非常によく似ていることが分かる。


以上の考察により、電気双極子がつくる電場と、円形電流がつくる磁場は非常によく似ていることが分かった。
そこで、この点に着目して、本来は実在しない磁荷$q_\mathrm{m}$が存在するとする。この場合、点磁荷$q_\mathrm{m}$がつくる磁場はCoulombの法則より、電場の場合と同様に、
\begin{align}
B(\bm{x})=\frac{1}{4\pi}\frac{q_\mathrm{m}}{r^2}\label{eq: B_coulomb_def}
\end{align}
だと仮定する。

補足

ここでは気にせずに仮定を受け入れてほしいが、$\mu_0$の扱いが不自然だと思われる場合は式\eqref{eq: B_H_coulomb_def}を参照されたい。

そして、
$z$軸上に距離$s$だけ離れた磁荷$+q_\mathrm{m},-q_\mathrm{m}$が原点対称に置かれている場合に、これが位置$\bm{r}\ (r\gg s)$につくる磁場は球面座標系において次のように書ける。
\begin{align}
B_r &= \frac{2m}{4\pi}\frac{\cos\theta}{r^3},\\
B_\theta &= \frac{m}{4\pi}\frac{\sin\theta}{r^3}.
\end{align}
ただし、$\bm{m}:=q_\mathrm{m} \bm{s}$により表される磁気双極子モーメントベクトルを用いた。
上記の問題設定は電気双極子の問題と全く同じであるため、式\eqref{eq: edipole_Er}と式\eqref{eq: edipole_Eth}からの簡単な置き換えのみで導出可能である。

一方で、この結果を円形電流の場合に得られた式\eqref{eq: mdipole_Br}および式\eqref{eq: mdipole_Bth}と比較すると、以下の対応関係が得られる。

磁気双極子モーメントベクトルと閉電流$I$の関係

\begin{align}
m=\mu_0SI.
\end{align}


前述の通り、一般の閉電流について囲まれる面積$S$を用いて磁場の表式は同じであるため、この磁気双極子モーメントベクトルの表式も任意の形状で同じである。すなわち、面積$S$の閉電流$I$が遠方につくる磁場は、$m=\mu_0SI$だけの磁気双極子モーメントベクトルをもつ磁気双極子がつくる磁場と等価である。またベクトル形式の式\eqref{eq: mag_dipole_B}に基づけば、円形電流の法線ベクトル$\bm{n}$(右ねじの向き)を用いて、$\bm{m}=\mu_0SI\bm{n}$と書ける。

磁化ベクトルと磁場の強さ

ここで、話を物質の磁化に戻す。物質中には微小な分子電流が多数存在することによって、物質の磁化が生じるのであった。つまり、磁気双極子モーメントベクトルが多数存在するとみなすこともできる。そこで、それらを平均的に扱い、単位体積あたりの磁気双極子モーメントベクトルを磁化ベクトル$\bm{M}$とする。このとき、分子電流の電流密度$\bm{i}_\mathrm{m}$との間に以下の関係がある。

磁化ベクトルと分子電流の関係

\begin{align} \mu_0\bm{i}_m(\bm{x})=\nabla\times\bm{M}(\bm{x})\label{eq: mag_vec_M_B_rel} \end{align}

これは一見、静磁場の基本法則:$\mu_0\bm{i}_m(\bm{x})=\nabla\times\bm{B}(\bm{x})$から、分子電流がつくる磁場が磁化ベクトル$\bm{M}$だと思えば自明に思えるが、いまは磁化ベクトルを単位体積あたりの磁気双極子モーメントベクトルと定めているため注意が必要である。磁気双極子モーメントベクトルに基づいて定義しているので、いま使えるのは$m=\mu_0SI$の関係である。$\Delta x,\Delta y,\Delta z$でつくられる微小な直方体を$z$方向に貫く磁化ベクトルを考える。このとき、分子電流$I_1$は$xy$平面上に流れていることを意味する。すると、この平面上における磁気双極子モーメントベクトルは、 \begin{align} m_1=\mu_0I_1\Delta x\Delta y \end{align} と書ける。一方で、磁化ベクトルはこれの単位体積あたりの平均値と定めているため、 \begin{align} M=\frac{m_1}{\Delta x\Delta y\Delta z}=\frac{\mu_0I_1}{\Delta z} \end{align} である。ここで、$M$は$x$のみに依存する($M=M_z=M(x)$)ものとし、$x$方向に広がる分子電流のみを考える。この場合、$x$方向に隣り合う分子電流$I_2$とは接する辺において相殺しあうため$\Delta I = I_1 – I_2$の電流が残り、これが磁化を引き起こす電流となる。このとき、 \begin{align} \nabla\times\bm{M}=-\del{M_z}{x}\bm{e}_y \end{align} となる。先ほど得られた$M$の表式から \begin{align} -\del{M_z}{x}=-\frac{\mu_0}{\Delta z}\del{I_1}{x}=\frac{\mu_0\Delta I}{\Delta x\Delta z} \end{align} が得られる。 一方で、最右辺の$\frac{\Delta I}{\Delta x\Delta z}$は、磁化電流$\Delta I$の$y$方向の電流密度になっているため$\bm{i}_\mathrm{m}$の$y$成分である。以上により、$x$方向の分子電流のみを考えることで、
\begin{align}
\nabla\times\bm{M}=-\del{M_z}{x}\bm{e}_y=\mu_0i_\mathrm{m} \bm{e}_y \end{align} が得られた。一般の場合の証明は大変なので、ここで証明を終える。

証明の最初にも述べたように、この関係は一見自明にも思える。ただし、磁化ベクトルはあくまで磁気双極子モーメントベクトルの単位体積あたりの平均値として定義しているため、物質の外部では値はゼロになる。そのため、これは分子電流がつくる磁場とはみなせない。一方で、物質内部においては磁気双極子モーメントベクトルの平均値として定めた磁化ベクトル$\bm{M}$が、$\mu_0\bm{i}_\mathrm{m}(\bm{x})=\nabla\times\bm{M}(\bm{x})=\nabla\times \bm{B}(\bm{x})$を満たし、まるで分子電流がつくる磁場$\bm{B}$が満たす方程式に従うのである。このことに注意して、磁性体に対してAmpèreの法則を適用すると、
\begin{align}
\nabla\times\bm{B}(\bm{x})=\mu_0 \left(\bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x})+\bm{i}_\mathrm{m}\right)
\end{align}
によって、伝導電流$\bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x})$と分子電流$\bm{i}_\mathrm{m}$の合成電流からつくられるのが全体の磁場となる。しかし、式\eqref{eq: mag_vec_M_B_rel}の関係を用いると、
\begin{align}
\nabla\times\bm{B}(\bm{x})=\mu_0 \bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x})+\nabla\times\bm{M}(\bm{x}) \end{align} と表せる。 これは、誘電体のときの電場と分極ベクトルの関係式: \begin{align} \nabla\cdot\bm{E}(\bm{x})=\frac{1}{\varepsilon_0}\rho_\mathrm{e}(\bm{x})-\frac{1}{\varepsilon_0}\nabla\cdot\bm{P}(\bm{x})
\end{align}
と対応づけられるだろう。

ここでは、
\begin{align}
\bm{H}(\bm{x}):= \frac{1}{\mu_0}\left(\bm{B}(\bm{x})-\bm{M}(\bm{x})\right)
\end{align}
として磁場の強さ$\bm{H}(\bm{x})$を導入することによって、
\begin{align}
\nabla\times\bm{H}(\bm{x})=\bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x})
\end{align}
が得られる。

これは、電場のときに電束密度を導入して、
\begin{align}
\bm{D}(\bm{x})=\varepsilon_0 \bm{E}(\bm{x})+\bm{P}(\bm{x})
\end{align}
の関係があったことと対比させると、
\begin{align}
\bm{B}(\bm{x})=\mu_0 \bm{H}(\bm{x})+\bm{M}(\bm{x})
\end{align}
となっている。つまり、今まで扱ってきた磁場$\bm{B}(\bm{x})$はむしろ電束密度に対応する量であったことを意味する。上式を見ると、$\bm{E}$と$\bm{H}$を対応づけた方が対称性が良いように見える。しかし、当ブログでは$\bm{E}$-$\bm{B}$対応を採用しており、実際にこの対応の選び方は統一されてはいないためどちらのタイプの教科書も存在する。この点はあとでまた議論することにする。

また、式\eqref{eq: B_coulomb_def}において、磁場のCoulombの法則は、
\begin{align}
H(x)=\frac{1}{4\pi\mu_0}\frac{q_\mathrm{m}}{r^2},\quad B(x)=\frac{1}{4\pi}\frac{q_\mathrm{m}}{r^2}\label{eq: B_H_coulomb_def}
\end{align}
として電場と対応づけたために$\mu_0$の扱いが不自然だったのである。

磁性体中の静磁場の基本法則

実験結果から多くの磁性体では、$\bm{M}(\bm{x})=\chi_\mathrm{m}\bm{H}(\bm{x})$の関係があることが知られている。ここで、$\chi_\mathrm{m}$を磁化率という。この関係を利用すると、
\begin{align}
\bm{B}(\bm{x})=(\mu_0+\chi_\mathrm{m})\bm{H}(\bm{x})=:\mu\bm{H}(\bm{x})\label{eq: static_H_def}
\end{align}
のように透磁率$\mu$を用いて磁場の強さとの比例関係を表せる。真空の場合には$\chi_\mathrm{m}=0$であるから、$\mu_0$を真空の透磁率と呼んでいたのである。

また、Gaussの法則:
\begin{align}
\divergence\bm{B}(\bm{x})=0\label{eq: static_H_law1}
\end{align}
および、微分形のAmpèreの法則:
\begin{align}
\rot\bm{H}(\bm{x})=\bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x})\label{eq: static_H_law2}
\end{align}
が磁性体中で成立する磁場の基本法則となる。

式\eqref{eq: static_H_def}の関係を用いれば、
\begin{align}
\rot\bm{B}(\bm{x})=\mu\bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x}) \end{align} とも表せる。 これを見ると、磁場$\bm{B}$のときに現れる$\mu$が磁場の強さ$\bm{H}$の方程式では消えており、伝導電流$\bm{i}_\mathrm{e}$のみで完全に決定されることを意味する。すなわち、$\bm{H}$は物質に依らない量である。

また、真空中と磁性体中の静磁場の基本法則を比べると、違いは$\mu_0$か$\mu$かだけであるため、
この他にもこれまで真空中の場合に得られた結果に対して、$\mu_0\to \mu$と形式的に置き換えれば磁性体中の表式が得られる。

静磁場の基本法則

これまでに得られた静磁場の基本法則を整理してこの章を終える。

真空中の静磁場の基本法則

真空中の場合は、すでに扱った通り、
\begin{align}
\nabla\cdot\bm{B}(\bm{x})&=0,\\
\nabla\times\bm{B}(\bm{x})&=\mu_0\bm{i}(\bm{x}).
\end{align}

磁性体中の静磁場の基本法則

磁性体中の場合は、本記事で扱った通り、
\begin{align}
\bm{B}(\bm{x})&=\mu\bm{H}(\bm{x}),\\
\nabla\cdot\bm{B}(\bm{x})&=0,\\
\nabla\times\bm{H}(\bm{x})&=\bm{i}_\mathrm{e}(\bm{x}).
\end{align}

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