4-2 Faradayの電磁誘導の法則

物理学

Faradayの電磁誘導の法則

Faradayの実験

静磁場について扱ったときは、定常電流が磁場を生み出すとして記述した。これはOerstedの実験により電流が磁場をつくることの発見がきっかけになり、電磁気学の研究が大きく発展したことを説明した。Faradayは、その逆の関係を示す現象を実験的に発見した。それは、磁場から電流を発生させるという現象である。この実験では、閉回路のコイルに対してかける磁場を時間変動させることによって、コイルに流れる電流が変化するかを調べた。

Faradayの実験セットアップの概念図を上図に示した。図のように1つの鉄の環に対して2つのコイルを巻いて、電流を流したり測定したりできるようになっている。このとき、一方のコイルにのみ電流を流すと鉄の環に磁場をつくる。このように定常電流を流して安定な状態を見れば、静磁場として取り扱えるため、当然ながらもう一方のコイルには電流は流れない。なぜならコイルを貫く鉄に磁場はあるものの、それによって電流が流れるという法則はなかったからである。しかし、Faradayはこのコイルに電流を流した瞬間や、電流を切った瞬間に一瞬だけもう一方のコイルに電流が流れることを発見したのである。これは、時間変動する電流と磁場によって引き起こされる現象であるから、これまでの静磁場の理論には矛盾しない新しい現象である。

さらに、Faradayは他の場合にも、電流は一定のままコイルを移動した場合や、コイルは動かさずに単に磁石を動かした場合などにも同様に電流が変化することを発見した。すなわち、この実験セットアップに固有な現象ではなく、一般にコイル内を貫く磁場分布の変化に伴って、コイルに流れる電流が変化することを発見したのである。

Lenzの法則

Faradayによって発見された磁場の時間変動に関する実験結果は、Neumannによって定式化され、Lenzの法則と呼ばれている。

Lenzの法則 (実験結果)

閉回路$C$に生じる起電力$\phi^\mathrm{e.m.}$は、閉回路に囲まれる面$S$を貫く磁場$\bm{B}(\bm{x},t)$の時間変化には次のような関係がある。
$k$は比例定数だが、後の考察により$k=1$である。
\begin{align}
\oint_C \bm{E}(\bm{x},t)\cdot \dd\bm{x}=\phi^\mathrm{e.m.}=-k \dif{\Phi}{t}=: -k\dif{}{t}\int_S \bm{B}(\bm{x},t)\cdot\bm{n}(\bm{x})\,\dd S\label{eq: Lenz_law}
\end{align}

ただし、ここで導入された$\Phi$とは、面$S$で磁場$\bm{B}(\bm{x},t)$を面積分した量であり、磁束という。このことから逆に磁束の密度に対応する$\bm{B}(\bm{x},t)$は磁束密度ともいう。
このとき、電流の流れる方向は、磁束の変化を妨げる方向であり、この法則がLenzの法則として知られているものである。上の表式では、そのLenzの法則を反映して、負号がついている。

Faradayの誘導法則

Lenzの法則では積分形式で表現されており、遠隔作用に基づいた表現になっている。そこで、微分形にして近接作用の表現に変更することで、時間変動する電磁場の最後の基本法則が得られる。

Lenzの法則の式\eqref{eq: Lenz_law}から得られる関係:
\begin{align}
\oint_C \bm{E}(\bm{x},t)\cdot \dd\bm{x}= -k\dif{}{t}\int_S \bm{B}(\bm{x},t)\cdot\bm{n}(\bm{x})\,\dd S
\end{align}
の左辺にStokesの定理を適用して線積分から面積分に変換したい。

\begin{align}
\int_{S_\mathrm{C}} \nabla\times\bm{E}(\bm{x},t)\cdot\bm{n}_\mathrm{C}\,\dd S_\mathrm{C} = -k\dif{}{t}\int_S \bm{B}(\bm{x},t)\cdot\bm{n}(\bm{x})\,\dd S
\end{align}
ただし、$S_\mathrm{C}$はコイルによって囲まれる任意の面である。

一方で右辺の面$S$の取り方についても、実は磁場の性質により任意である。まず磁場のGaussの法則: $\nabla\cdot\bm{B}(\bm{x},t)=0$は成立するとしているため、$\partial V=S+S_\mathrm{added}$によって面$S$に適当な面$S_\mathrm{added}$を追加することで囲まれた領域$V$を構成することができる。このとき、
\begin{align}
0=\int_V \nabla\cdot\bm{B}(\bm{x},t)\,\dd^3x =\int_S\bm{B}(\bm{x},t)\cdot\bm{n}(\bm{x})\,\dd S-\int_{S_\mathrm{added}} \bm{B}(\bm{x},t)\cdot\bm{n}(\bm{x})\,\dd S
\end{align}
により、
\begin{align}
\int_S\bm{B}(\bm{x},t)\cdot\bm{n}(\bm{x})\,\dd S=\int_{S_\mathrm{added}} \bm{B}(\bm{x},t)\cdot\bm{n}(\bm{x})\,\dd S
\end{align}
が保証されるため、面$S$は任意の面$S_\mathrm{added}$に変更できる。

よって、以上の結果をまとめると、
\begin{align}
\int_{S} \left(\nabla\times\bm{E}(\bm{x},t)+k\del{\bm{B}(\bm{x},t)}{t}\right)\cdot\bm{n}\,\dd S =0
\end{align}
を得る。

ここで、面$S$は任意にとれたので、各点$\bm{x}$において以下が成立する。
\begin{align}
\nabla\times\bm{E}(\bm{x},t)+k\del{\bm{B}(\bm{x},t)}{t} =0.\label{eq: Lenz_Faraday_k}
\end{align}

これをFaradayの誘導法則という。

電磁誘導の電子論

前節で得られたFaradayの誘導法則は、コイルを貫く磁場分布(磁束)の変化によって起電力が生じるというものであった。しかし、Faradayの実験によると、磁場を変えずにコイルを動かすことでも起電力が生じるのであった。これはもちろん、コイルを動かすことでコイルを貫く磁束が変化するため、Faradayの誘導法則とは矛盾しない。しかし、この考察で電子の運動と対応づけることで、Lorentz力との関係が明らかになり、比例定数$k$が1であることが結論づけられる。

いま、図のように一様磁場$\bm{B}(\bm{x})$の中をコイル$C$が$C’$まで速度$\bm{v}$で移動したとする。微小時間$\Delta t$の間に移動したとすると、移動距離は$v\Delta t$となる。Lenzの法則を使用するために、このときの磁束の変化に着目する。$C,C’$を両方通過する磁束は変化していないことを示しているので、$C,C’$を結んでつくられる傾いた円柱の側面を貫く磁束が変化量$\Delta\Phi$となる。
よって、
\begin{align}
\Delta\Phi = \oint_C\bm{B}(\bm{s})\cdot (\bm{v}\Delta t\times \dd\bm{s})=-\oint_C(\bm{v}\times\bm{B}(\bm{s}))\cdot\dd\bm{s}\,\Delta t
\end{align}
となる。つまり、磁束の時間変化は、
\begin{align}
\dif{\Phi}{t} = -\oint_C(\bm{v}\times\bm{B}(\bm{s}))\cdot\dd\bm{s}
\end{align}
と書ける。

式\eqref{eq: Lenz_law}のLenzの法則に代入すると、このコイルの移動により生じる起電力$\phi^\mathrm{e.m.}$は、
\begin{align}
\oint_C\bm{E}(\bm{s})\cdot\dd\bm{s}=\phi^\mathrm{e.m.}= k\oint_C(\bm{v}\times\bm{B}(\bm{s}))\cdot\dd\bm{s}
\end{align}
と書ける。いまは磁場は時間変化しないものとしているため、起電力を表すための電場も時間変化しないもので表現できる。上式により、
\begin{align}
\bm{E}(\bm{s})=k(\bm{v}\times\bm{B}(\bm{s}))\label{eq: electromotive_by_Lorentz}
\end{align}
だけの誘導電場が生成されることになる。すなわち、導線内の電子にはたらく力は、
\begin{align}
\bm{F}(\bm{s})=-e\bm{E}(\bm{s})=-ke(\bm{v}\times\bm{B}(\bm{s}))
\end{align}
となるが、最右辺はLorentz力になるはずであるため、$k=1$と結論づけられる。

つまりここで扱ったタイプの電磁誘導、すなわち磁場を変えずにコイルを動かすものは、真に新しい実験結果ではないことを意味する。つまり、電流をつくる電子の視点でみると、Lorentzの力によって起電力が生じることを説明可能である。「磁場を変えずに」と仮定している時点で静磁場の問題であるから、そこでコイルを動かすことは電子が移動するという問題を考えているにすぎない。一方で、この現象を電磁誘導としてみることでも無矛盾で説明できるはずであるから、Lenzの法則において$k=1$でなければいけないことが導かれるのである。

時間変動する電磁場の基本法則2

以上の考察により、Lenzの法則から導かれたFaradayの誘導法則 (式\eqref{eq: Lenz_Faraday_k})が、時間変動する電磁場の基本法則2であるが、$k=1$であるべきなので以下のようになる。

Faradayの誘導法則

\begin{align}
\nabla\times\bm{E}(\bm{x},t)+\del{\bm{B}(\bm{x},t)}{t} =0.\label{eq: maxwell_faraday}
\end{align}

これで、Maxwell方程式の材料がすべて揃った。

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