このページで解説するNote(抜粋):
https://okunotes.com/contents/Electromagnetism/em_introduction.pdf
電磁気学についてまとめたNoteの最新版:
https://okunotes.com/contents/Electromagnetism/Electromagnetism.pdf
この電磁気学シリーズでは、大学物理で学ぶ電磁気学から解説をしていく。
このページでは、電磁気学とは何か、なぜ電磁気学を学ぶのか、について議論する。
これから電磁気学を学ぶ人も、もう一度電磁気学を学び直す人も、改めてここでモチベーションを高めて学習の準備をしよう。
電磁気学の魅力
電磁気学は、応用範囲が非常に広く、奥が深い学問である。それだけに、物理学科に限らず、工学、情報科学、さらには化学などをはじめ、幅広い分野の学生や大人までもが勉強する学問である。電磁気学を面白いと思えるかどうかで、他の物理の分野に対する勉強意欲が大きく変わるといっても過言ではないだろう。電磁気学は、古典物理学(力学、電磁気学など)と現代物理学(相対性理論、量子力学、場の量子論など)の橋渡しをする学問でもある。
Maxwell方程式の導出に向けて
この電磁気学シリーズでは、まずMaxwell方程式の導出を目標に設定する。これは電磁気学の基本方程式をたった4つにまとめた非常に美しい方程式である。ここで、先にその方程式を提示しておく。
$$
\begin{align}
&\nabla \cdot \bm{E}(\bm x, t)=\frac{\rho(\bm x, t)}{\varepsilon_0}\\
&\nabla \cdot \bm{B}(\bm{x}, t)=0\\
&\nabla \times \bm E(\bm x, t) + \frac{\partial \bm B(\bm x, t)}{\partial t}= 0\\
&\nabla \times \bm B(\bm x, t)-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \bm E(\bm x, t)}{\partial t^2}=\mu_0 \bm i(\bm x, t)
\end{align}
$$
もちろん現時点でMaxwell方程式の意味を理解する必要はないし、この章の内容もすべて理解する必要はない。明確な目標を持って学習するとモチベーションも保ちやすいという考えから、先にゴールを示しているだけである。
上の式は、真空中のMaxwell方程式である。これらの式の意味はこれから説明していくので、後でもう一度見直すとそれぞれの式の物理的な意味が理解できるはずである。これらの4つの式を用いると、多くの電磁気学的現象を説明することができる。直接的にMaxwell方程式と結びつけるのにはまたテクニックが必要ではあるが、日常生活で見られる多くの現象(例えば、静電気、磁気、光の反射・屈折)を科学的に説明することができるということである。物理学とは、実験を通して蓄積した経験から規則性を見出し、その背後にある本質を見抜くことで、実験結果をすべて説明できるような方程式を探し求める学問である。電磁気学のMaxwell方程式や、力学のNewton方程式はその例と言える。
電磁気学の位置付け
まず、電磁気学とは、身近な例でいえば電気の力や磁石の力について、定量的に記述し、理解するための学問である。ここで、力というのは力学的な力のことであるため、想像するのはそれほど難しくないはずである。静電気によって髪の毛が逆立つのも、髪の毛に電気の力(クーロン力)が働くためであるし、電動モーターでは、電流が流れるコイルに対して磁石の力(ローレンツ力)が働くことによって回転運動が発生する。このような力、すなわち電磁相互作用の大きさをどのように表現できるのかを考えるのが電磁気学である。
4つの基本相互作用
ところで、現代の物理学では、4つの基本的な相互作用があると考えられている。つまり、すべての自然現象は4つの相互作用の組み合わせによって記述することができる。この4つの相互作用とは、
- 重力相互作用
- 重力は、質量を持つ物体同士が引き合う力である。日常生活では、物体が地面に引かれる現象として最も身近に感じることができる。重力相互作用は、物体の質量が大きくなるほど強くなる。
- 電磁相互作用
- 電磁気学の主要なテーマであり、電荷を持つ粒子間の相互作用である。クーロン力やローレンツ力などがこれに該当し、静電気現象や電磁波の伝播、化学結合など、多くの現象を説明する。
- 弱い相互作用
- 主に素粒子物理学の領域で現れる相互作用で、$\beta$崩壊などの放射性崩壊に関与する。弱い相互作用は、素粒子のフレーバー(種類)を変える唯一の相互作用である。
- 強い相互作用
- 原子核を構成する陽子や中性子を束縛する力である。強い相互作用は、非常に短距離でしか働かないものの、その強さは他の相互作用と比べて圧倒的である。
である。身近な例は重力相互作用と電磁相互作用であり、日常生活においては、弱い相互作用と強い相互作用を感じることはないだろう。
それぞれの相互作用の相対的な強さを単純に比べると、強い相互作用$(\sim10^{40})>$電磁相互作用$(\sim10^{38})\gg$弱い相互作用$(\sim10^{15})\gg$重力相互作用$(1)$の順となる。しかし、それぞれの相互作用が影響を与える有効な範囲が異なるため、考えているもののスケールによって相互作用の寄与が異なる。強い相互作用については、有効範囲が$10^{-15}$ mほどで、原子核のサイズ程度の影響力しかもたない。また弱い相互作用についても、$10^{-18}$ m程度とさらに短い範囲にしか影響を及ぼさない。一方、電磁相互作用と重力相互作用については、理論的には距離の2乗に反比例した力が無限遠まで働く。そのため、人間のスケール($\sim$ m)で見ると、電磁相互作用と重力相互作用が支配的に見えるのである。
[参考] 電磁気学以降の物理学の学習の流れ
このノートでは電磁気学、すなわち電磁相互作用の理解に向けて解説を進めていくわけだが、その後の物理学の学習の流れを簡単に説明しておく。まず、特殊相対性理論と量子力学を学び、それらを合わせた新しい枠組みの場の量子論を学ぶ。場の量子論の中で、電磁相互作用を扱う量子電磁力学(QED)を学ぶことでようやく電磁相互作用を理解したと言えるだろう。さらに、弱い相互作用と電磁相互作用を統一的に記述することができるのである。これは電弱統一理論という。歴史を振り返ると、電磁気学も電気の力と磁気の力というのはかつては別々の力と考えられていた。しかし、これらはMaxwell方程式によって、統一的に電磁気学の枠組みによって記述することができるようになったのである。物理学ではこのように本質を見出して、なるべく統一して究極の方程式で森羅万象を説明しようとするのである。とすると、残りの強い相互作用と重力相互作用も統一したくなる。電弱統一理論と強い相互作用を統一した理論を大統一理論といい、さらに重力相互作用まで統一したものを超大統一理論または万物の理論という。しかし、これらはまだ完成しておらず、現代物理学の大きなテーマとなっている。大統一理論については、実験的な研究によって検証が行われているものの肯定的な結果はなかなか得られていないのが現状である。一方、超大統一理論はさらに難しく検証もほぼできない状況であるが、超弦理論などがその理論の候補となっている。現代物理学の全体像と、その中における電磁気学の位置付けは理解してもらえただろうか。電磁気学で扱う電磁相互作用は、これらの中では最も扱いやすく、この他の相互作用を研究する上での指針を与えてくれる存在にもなる基本的な相互作用となる。まずは、電磁気学の理論体系を学び、どのようにMaxwell方程式によって、一見異なる電気と磁気の力を統一したのかを知ることができる。ここには現代物理学の研究へも通じるヒントが隠されているのかもしれない。
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