2-10 誘電体

物理学

誘電体

誘電分極

ここでは誘電体を扱う。これは電気を通しにくい性質をもつ物質であり、絶縁体(不導体)と似ている。

補足

しかし実際にはその特徴によって、周波数特性が異なる。直流の場合には、どちらも電気を通さない。一方で、交流の場合には、絶縁体では変わらず電気を通さないが、誘電体でできたコンデンサの場合はインピーダンスが周波数に依存するため電気を通す場合がある。

ここでいう誘電体とは、導体とは異なり電場をかけたときに内部で電子が自由に動き回ることができない物質であると考えればよい。

物質は原子によって構成されており、その原子は正の電荷をもつ原子核と、負の電荷をもつ電子によって構成されている。この物質をこれから誘電体と呼ぶ。この誘電体を電場の中に置くと、中の原子が分極する。導体の場合には、電場によって自由電子が速やかに移動し、内部の電場を完全に打ち消すことで静電遮蔽される。一方で、誘電体の場合には、内部で電子がゆっくりと移動するだけであり、電場を弱める方向に変化するものの完全に打ち消しはしない。つまり、誘電体中で分極することによって多数の電気双極子を形成する。この現象を、誘電分極という。

分極ベクトルと電束密度

電場により内部の分極で$+q$と$-q$の電荷が$\bm{\ell}$だけ離れると、$\bm{p}=q \bm{\ell}$の電気双極子モーメントが現れる。ここで、$\bm{\ell}$は$-q$から$+q$へ向かうベクトルである。単位体積あたりの原子数を$N_\mathrm{a}$とすると、電荷密度は$\rho=\pm q N_\mathrm{a}$と表される。ここで、誘電体中に適当な断面積$S$を考えると、分極によって断面積$S$に現れた分極電荷は、
\begin{align}
\rho \bm{S}\cdot\bm{\ell} =\pm qN_\mathrm{a} \bm{S}\cdot\bm{\ell} = \pm N_\mathrm{a}\bm{p}\cdot\bm{S}= \pm\sigma_\mathrm{p}|\bm{S}|
\end{align}
と書ける。ここで、分極ベクトル$\bm{P}$を電気双極子モーメント$\bm{p}$によって
\begin{align}
\bm{P}:=\bm{p}N_\mathrm{a}
\end{align}
と定義する。分極ベクトルは、大きさが分極電荷の面密度に等しく($|\bm{P}|=\sigma_\mathrm{p}$)、分極によって生じる電気双極子の総量を表す量になっている。

この分極ベクトルの意味は、単位面積を通過する正電荷の大きさと向きであると解釈できる。この場合、分極の際に断面$S$を通過する全電荷の総量は、
\begin{align}
\int_S \bm{P}\cdot \dd\bm{S}
\end{align}
によって表される。また、この面を誘電体内で少しずらした位置の$S’$に移動したとすると、その面を通過する全電荷量は、
\begin{align}
\int_{S’}\bm{P}\cdot \dd\bm{S’}
\end{align}
と表される。一方で、$S$と$S’$で囲まれた領域における電荷の総量はゼロのはずである。なぜなら、分極によって電荷分布が実際に変わるのは誘電体の表面のみであり、内部では電気的に中性を保った上で分極するだけだからである。すなわち、誘電体内の任意の面$S$と$S’$に対して、
\begin{align}
\int_{S}\bm{P}\cdot \dd\bm{S}=\int_{S’}\bm{P}\cdot \dd\bm{S’}
\end{align}
が成立する。

次に、実際に誘電体の端に現れる電荷(分極電荷)について考える。ここで、例として$Q_\mathrm{e}>0$で帯電している導体を考え、そのまわりを誘電体が満たしているとする。この場合は、分極の結果として導体表面に負電荷が生じる。一方で、正電荷は無限遠に生じることになるため、その影響は無視することができる。導体表面を$S_0$とするならば、そこに生じる負の分極電荷は、
\begin{align}
-\int_{S_0}\bm{P}\cdot \dd\bm{S_0}
\end{align}
である。

以上のことを踏まえて、この導体を囲む任意の閉曲面$S$を考えてGaussの法則を適用すると、
\begin{align}
\int_S\bm{E}(\bm{x})\cdot\dd \bm{S}=\frac{1}{\varepsilon_0}\left(Q_\mathrm{e}-\int_{S_0}\bm{P}\cdot \dd\bm{S_0}\right)
\end{align}
が成立する。これまでは特に意識していなかったが、$Q_\mathrm{e}$は分極を考えずに導体に帯電させた真の電荷であるから、真電荷ともいう。右辺では、真電荷$Q_\mathrm{e}$から分極によって生じる負の分極電荷の分だけ電荷が小さくなり、それにしたがって電場も弱められることが分かる。
また、先ほどと同じ議論から$S_0$と$S$に囲まれた領域の電荷の総量はゼロであることから、$S_0$における面積分は$S$における面積分に変換することができる。よって、
\begin{align}
\int_S\left(\varepsilon_0\bm{E}(\bm{x})+\bm{P}(\bm{x})\right)\cdot \dd \bm{S}=Q_\mathrm{e}
\end{align}
が成立する。

ここで、
\begin{align}
\bm{D}(\bm{x}):=\varepsilon_0 \bm{E}(\bm{x})+\bm{P}(\bm{x})
\end{align}
によって定義される$\bm{D}(\bm{x})$を電束密度 (electric flux density)という。

これを用いると、誘電体中においても有効なGaussの法則:
\begin{align}
\int_S\bm{D}(\bm{x})\cdot \dd \bm{S}=Q_\mathrm{e}
\end{align}
が得られる。

誘電体中の静電場の基本法則

また、実験結果から多くの誘電体では$\bm{P}(\bm{x})=\chi_\mathrm{e}\bm{E}(\bm{x})$の関係があることが知られている。ここで、$\chi_\mathrm{e}$を電気感受率という。この関係を利用すると、
\begin{align}
\bm{D}(\bm{x})=(\varepsilon_0+\chi_\mathrm{e})\bm{E}(\bm{x})=:\varepsilon\bm{E}(\bm{x})\label{eq: static_D_def}
\end{align}
のように誘電率$\varepsilon$を用いて電場との比例関係を表せる。真空の場合には$\chi_\mathrm{e}=0$であるから、$\varepsilon_0$を真空の誘電率とこれまで呼んでいたのである。

また、真空中の議論と全く同様にしてGaussの定理を用いることで微分形のGaussの法則:
\begin{align}
\divergence\bm{D}(\bm{x})=\rho_\mathrm{e}(\bm{x})
\end{align}
および、時間変動する場合にも、
\begin{align}
\divergence\bm{D}(\bm{x},t)=\rho_\mathrm{e}(\bm{x},t)
\end{align}
が成立する。

また、もう一つの静電場の基本法則$\rot\bm{E}(\bm{x})=\bm{0}$については、誘電率に関係しないため、誘電体中においても同様に成立する。したがって、誘電体中の静電場の基本法則は、

\begin{align}
\divergence\bm{D}(\bm{x})&=\rho_\mathrm{e}(\bm{x}),\label{eq: static_D_law1}\\
\rot\bm{E}(\bm{x})&=\bm{0}\label{eq: static_D_law2}
\end{align}

である。よって、この他にもこれまで真空中の場合に得られた結果に対して、$\varepsilon_0\to \varepsilon$と形式的に置き換えれば誘電体中の表式が得られる。

異なる誘電体間の境界における接続条件

異なる誘電体が接している場合に、それらの境界における接続条件についてここで整理しておく。結果を先に述べると、境界に対して、電束密度$\bm{D}$は法線方向に連続であり、電場$\bm{E}$は接線方向に連続である。これから、その導出を行う。

誘電率$\varepsilon_1$、$\varepsilon_2$の誘電体の境界に対して、図のようにそれをまたぐ薄い円柱を考えてGaussの法則を適用する。

円柱内部の電荷の総量はゼロであるから、円柱の上面および底面の面積を$\Delta S$として、
\begin{align}
\bm{D}_1\cdot\bm{n}_1\Delta S+\bm{D}_2\cdot\bm{n}_2\Delta S=0.
\end{align}
よって、
\begin{align}
(\bm{D}_1-\bm{D}_2)\cdot \bm{n}=0
\end{align}
となり、電束密度$\bm{D}$は境界の法線方向に連続であることが分かる。一方で、電場の表記になおすと、
\begin{align}
(\varepsilon_1\bm{E}_1-\varepsilon_2\bm{E}_2)\cdot \bm{n}=0
\end{align}
となっており、電場$\bm{E}$は法線方向に連続ではない。

次に境界の接線方向について考える。今回は先ほどの円柱の断面を切って次の図のような2次元の閉曲線$C$を考える。

すると、$\rot\bm{E}=\bm{0}$より、Stokesの定理からこの閉曲線$C$に沿った線積分は1周でゼロになる。
よって、誘電体内で境界線と平行なベクトルをそれぞれ$\bm{t}_1,\bm{t}_2$として、$C$のうちこの平行な部分の長さを$\Delta r$とすれば、
\begin{align}
0=\oint_C \bm{E}(\bm{x})\cdot\dd\bm{x}=\bm{E}_1\cdot \bm{t}_1\Delta r +\bm{E}_2\cdot\bm{t}_2\Delta r
\end{align}
より、$\bm{t}=\bm{t}_1=-\bm{t}_2$から、
\begin{align}
(\bm{E}_1-\bm{E}_2)\cdot \bm{t}=0
\end{align}
を得る。したがって、電場$\bm{E}$は接線方向に連続であると言える。一方で、電束密度にすると、
\begin{align}
\left(\frac{\bm{D}_1}{\varepsilon_1}-\frac{\bm{D}_2}{\varepsilon_2}\right)\cdot \bm{t}=0
\end{align}
となるから、電束密度$\bm{D}$は接線方向に連続ではない。

電場の屈折の法則

また、これらの誘電体の境界における接続条件から、電場の屈折の法則を導くことができる。


上図のように、誘電率$\varepsilon_1$の物質中から入射角$\theta_1$で入射した電場$\bm{E}_1$が、誘電率$\varepsilon_2$の物質中に入ると電場$\bm{E}_2$は出射角$\theta_2$で伝播する。このとき、電場の接線方向連続性と、電束密度の法線方向連続性から、
\begin{align}
E_1\sin\theta_1&=E_2\sin\theta_2,\\
\varepsilon_1E_1\cos\theta_1&=\varepsilon_2E_2\cos\theta
\end{align}
となる。これらの辺々の比をとることで、
\begin{align}
\frac{\tan\theta_1}{\tan\theta_2}=\frac{\varepsilon_1}{\varepsilon_2}=\mathrm{Const.}
\end{align}
を得る。これを屈折の法則という。これは電場の屈折の法則であって、有名な光の屈折の法則に関しては後で電磁波の議論をするときに扱う。

コンデンサの静電容量

真空中に導体を置いたときには、孤立導体の静電容量が与えられることを静電エネルギーの記事(https://okunotes.com/physics/electromagnetism/statice_energy/)で見た。ここでは、導体を2つ置き、大きさが等しく逆符号をもった電荷をそれぞれに帯電させる。このとき、正の電荷を帯びた導体Aから、負の電荷を帯びた導体Bに向かって電場が形成される。このような系をコンデンサと呼ぶ。コンデンサの静電容量は、これらの導体間の電位差$\phi(\mathrm{A})-\phi(\mathrm{B})$を$1$ Vだけ上昇させる電荷量 [C]と定義し、
\begin{align}
C_\mathrm{AB}:=\frac{Q}{\phi(\mathrm{A})-\phi(\mathrm{B})}
\end{align}
とする。また、この単位をF (ファラド)という。いまのMKSA有理単位系においては、
\begin{align}
1\ \mathrm{F}=1\ \mathrm{C\cdot V}^{-1}=1\ \mathrm{A^2\cdot s^2\cdot N^{-1}\cdot m^{-1}}
\end{align}
と表される。
また、このときに導体Bを無限遠に遠ざけると、$\phi(B)\to\phi(\infty)$となるから、孤立導体の静電容量に一致する。

具体例として、次のコンデンサに関する例題を解きながら話を進める。最初は、Gaussの法則を用いて電場を求める復習からである。

$xy$平面上に、面密度$+\sigma$で一様に帯電させた無限に広く厚さの無視できる平面板を置く。さらに、$z=-d$の面に、面密度$-\sigma$で同様に帯電させた平面板を置く。これらのつくる電場を求める。ちなみに、これは距離$d$だけ離した無限の広さをもつコンデンサとみなせる。


$xy$平面上をまたがる薄い円柱の表面を考えてGaussの法則を適用する。

今回は$xy$平面上の無限に広い板を考えているため電場は$x,y$に依らず、$\bm{E}=E(z)\bm{e}z$である。 すなわち円柱側面では、$\bm{E}\cdot \bm{n}=0$である。円柱の上面および底面の面積を$\Delta S$として、まずは上側の板のみがつくる電場$\bm{E}_+=E_+(z)\bm{e}_z$について、

\begin{align}
2|E_+(z)|\Delta S= \sigma \Delta S/\varepsilon_0
\end{align}
であり、$E_+(z)$の符号に注意すると、
\begin{align}
E_+(z) =
\begin{cases}
+\frac{\sigma}{2\varepsilon_0} & (z\ge 0)\\
-\frac{\sigma}{2\varepsilon_0} & (z< 0)
\end{cases}
\end{align}
となる。


同様に下側の板のみがつくる電場$\bm{E}_-=E_-(z)\bm{e}_z$について、

\begin{align}
E_-(z) =
\begin{cases}
-\frac{\sigma}{2\varepsilon_0} & (z\ge -d)\\
+\frac{\sigma}{2\varepsilon_0} & (z< -d)
\end{cases}
\end{align}
となる。

以上の結果から、2つの平行平面板を合わせると、
\begin{align}
\bm{E}_z=\left(E_+(z)+E_-(z)\right)\bm{e}_z=
\begin{cases}
\bm{0} & (z< -d)\\ -\frac{\sigma}{\varepsilon_0}\bm{e}_z & (-d \le z \le 0)\\ \bm{0} & (z>0)
\end{cases}
\label{eq: para_capacitor_ans_Ex}
\end{align}
となる。つまり、平行平面板に挟まれた$-d \le z \le 0$の領域にのみ一様な電場がかかることが分かる。これは理想的なコンデンサであるが、実際は有限の広さで有限の厚さをもつ。

$xy$平面上に、面密度$+\sigma$で一様に帯電させた面積$S$で厚さの無視できる平面板を置く。さらに、$z=-d$の面に、面密度$-\sigma$で同様に帯電させた平面板を置く。これらのつくる電場を求める。ちなみに、これは距離$d$だけ離した無限の広さをもつコンデンサとみなせる。また、このコンデンサの間に誘電率$\varepsilon$の誘電体を挿入しておく。

今回は無限に広い板ではなく、面積$S$の有限の大きさをもつ板であるから、電荷面密度は$\sigma=Q/S$と書ける。
電場はすでに式\eqref{eq: para_capacitor_ans_Ex}で導出したように、
\begin{align}
E(z) = -\frac{Q}{\varepsilon S}\ \ (-d\le z\le 0)
\end{align}
と書ける。このとき、静電ポテンシャルは、
\begin{align}
\phi(z)=\left(\frac{Q}{\varepsilon S}\right)z+\mathrm{Const.}
\end{align}
であるから、
\begin{align}
C:=\frac{Q}{\phi(0)-\phi(-d)}=\varepsilon\frac{S}{d}.
\end{align}
また、真空中の場合のコンデンサの静電容量は、
\begin{align}
C_0=\varepsilon_0 \frac{S}{d}
\end{align}
である。
これは、高校物理でも扱うコンデンサの基本公式であるが、経験的な式ではなくこのような過程によって導出することができるのである。

コンデンサ(一様電場)が誘電体を引き込む力

最後に、コンデンサに誘電体を近づけると引き込まれる現象を説明する。これは一様電場中に人間(誘電体)が近づくと吸い込まれることを意味しており、実験施設などで作業する際には注意をすべき内容である。この現象を、これまでの知見に基づいて定性的に説明する。
まずFaradayが、コンデンサの電極板の間に誘電体を挿入した際に、静電容量が増加することを発見していた。これは、次のように説明できる。まず、コンデンサにもともとあった電場の中に誘電体を挿入したために、分極が起こり電場が弱められる。したがって、同じ電場を保つためには電極からより多くの電荷を供給する必要があり、結果として静電容量が大きくなるのである。または、電荷$Q$を一定に保つのであれば、内部の電場が誘電体によって弱められ電位差が小さくなるため静電容量が大きくなるとも説明できる。いずれにせよ、コンデンサに誘電体を挿入すると、静電容量が増大する。

次に、静電エネルギーの変化に着目して、コンデンサに誘電体を挿入することを考える。静電エネルギーの記事(https://okunotes.com/physics/electromagnetism/statice_energy/)において、静電容量を用いた表式も紹介している。すると、$U_\mathrm{e}=Q^2/2C$であるから、もしも電荷$Q$を一定に保つのであれば静電容量が大きくなった方がエネルギー的に得をするため誘電体を引き込むことになる。または、電場を一定に保つのであれば$U_\mathrm{e}=C\phi^2/2$より、やはり誘電体を挿入した方が静電容量が大きくなるためエネルギー的に得をすることになり、誘電体を引き込むのである。

以上は定性的な説明ではあったが、エネルギーの具体的な表式も既知のため定量的に評価するのは難しくない。誘電体の有無によるエネルギー差の勾配から生じる力は、誘電体を引き込む電磁気力に他ならない。

静電場の基本法則

最後に、これまでに得られた静電場の基本法則を整理する。

真空中の静電場の基本法則は、
\begin{align}
\nabla\cdot\bm{E}(\bm{x})& =\frac{\rho(\bm{x})}{\varepsilon_0},\\
\nabla\times \bm{E}(\bm{x})&=\bm{0}.
\end{align}
であったのに対して、

誘電体中の静電場の基本法則は、
式\eqref{eq: static_D_def}、式\eqref{eq: static_D_law1}、式\eqref{eq: static_D_law2}より、
\begin{align}
\bm{D}(\bm{x})&=\varepsilon\bm{E}(\bm{x}),\\
\nabla\cdot\bm{D}(\bm{x})&=\rho_\mathrm{e}(\bm{x}),\\
\nabla\times\bm{E}(\bm{x})&=\bm{0}.
\end{align}

と表せる。

我々が電場を扱うときに考えるべき代表的な媒質は、真空と誘電体である。時には、導体やプラズマ、さらには特殊な性質をもつ媒質を考えることもあるが、その基礎となるのはこれまで扱ってきた真空と、ここで紹介した誘電体である。

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