このページで解説するNote(抜粋):
https://okunotes.com/contents/Electromagnetism/coulombs_low.pdf
電磁気学についてまとめたNoteの最新版:
https://okunotes.com/contents/Electromagnetism/Electromagnetism.pdf
電気の研究
電気の研究は古代から定性的なものではあったが続いており、有名なCoulombの法則が登場する以前にも多くの発見があった。紀元前600年頃、ギリシャの哲学者Thales (タレス)は琥珀をこすり合わせると軽い物体を引き寄せることを発見した。この現象は「琥珀効果」と呼ばれ、電気を意味する英語“electricity”はギリシャ語で琥珀を意味する“$\eta \lambda \varepsilon \kappa \tau \rho o \nu$”に由来する。その後、しばらく研究対象とはならなかったが、1600年にW. Gilbert(ギルバート)が著書“De Magnete (デ・マグネテ)”を発表し、磁気と静電気の違いを明確にした。Gilbertは琥珀以外にも、樹脂、硫黄、ガラス、水晶なども軽い物体を引き寄せる現象が見られることを発見した。更にGilbertは、磁石が鉄を引き寄せるのとは異なり、琥珀が軽い物体を引き寄せる現象は電気的なものであると説明した。
その後も、起電機の開発など電気にまつわる研究はあったものの、定量的な研究が本格的に始まるのは、C.A.de Coulomb (クーロン)の登場以降である。Coulombは、1785年にCoulombの法則を発表し、電荷間の力がそれぞれの電荷の積に比例し、距離の2乗に反比例することを明らかにした。Coulombはねじり秤を用いた精密な実験を行い、電気力の正確な測定を可能にした。この研究により、電気現象の定量的な理解が大きく進展し、電磁気学の発展に寄与することとなったのである。
Coulombの法則
Coulombの発見は、すなわち電荷$q$と$Q$をもつ2つの点電荷が距離$r$離れて存在するとき、それらの電荷間に働く力は、$F_\mathrm{C}\propto \frac{qQ}{r^2}$ということである。Coulombの法則は、MKSA有理単位系のもとで次のように表せる。
\begin{align}
F_\mathrm{C} = \frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\frac{qQ}{r^2}
\end{align}
この法則に基づいて議論を開始する。ただし、これは理論的に導出された式ではなく、あくまで実験結果から得られた式であることに注意してほしい。
\begin{align}
F_\mathrm{C}=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0} \frac{qQ}{r^{2+\delta}}
\end{align}
としたときに、現在の精度では$|\delta|<2\times 10^{-9}$で得られている。
また、ここで$\varepsilon_0$は真空の誘電率であり、その意味はだいぶ後に誘電体の話をするときにようやく理解できる。これは、
\begin{align}
\varepsilon_0= \frac{10^7}{4\pi (2.998\times10^8)^2}=8.854\times 10^{-12}\ [\mathrm{A^2\cdot s^2\cdot N^{-1}\cdot m^{-2}}]
\end{align}
である。つまり、$F_\mathrm{C} = k\frac{qQ}{r^2}$としたとき、比例定数$k$は
\begin{align}
k&=(2.998\times10^8)^2\times 10^{-7}\nonumber\\
&=8.9876\times 10^9\ [\mathrm{N\cdot m^{2}\cdot A^{-2}\cdot s^{-2}}]
\end{align}
で与えられているということを意味する。
あえて、こうして$4\pi$を前面に出している理由は後々Maxwell方程式が得られたときにキャンセルされて美しくなるからである。また、Coulombの法則は2点間の力の大きさで紹介したが、これをベクトルで表すこともできる。電荷$Q$が位置$\bm{z}_0$にあるとして、電荷$q$が位置$\bm{x}$で感じる力$\bm{F}_\mathrm{C}$は次のように書ける。
\begin{align}
\bm{F}_\mathrm{C} = \frac{qQ}{4\pi \varepsilon_0}\frac{\bm{x}-\bm{z}_0}{|\bm{x}-\bm{z}_0|^3}
\end{align}
場の概念
ここでは、物理学においては非常に重要な考え方である場の概念を説明する。数式的な取り扱いはほとんど変わらないが、物理的な考え方としては大きく異なる。まず、Coulombの法則を次のように書き換える。
\begin{align}
\bm{F}_\mathrm{C} = q\bm{E}(\bm{x}=\bm{z}_0),\ \ \ \bm{E}(\bm{x}=\bm{z}_0):=\frac{Q}{4\pi \varepsilon_0}\frac{\bm{x}-\bm{z}_0}{|\bm{x}-\bm{z}_0|^3}\label{eq: efield_point}
\end{align}
ここで、新しく登場した$\bm{E}$は電場 (electric field)という。特に、時間変動しない場合には静電場という。数式的には$q$とそれ以外の部分に分離しただけで等価だが、物理的な意味は異なり電荷$q$と$Q$が対等ではなくなった。上式では、電荷$Q$が作り出した電場$\bm{E}(\bm{x}=\bm{z}_0)$が常に存在しており、そこにたまたま電荷$q$を置いたことで電場から力を受けてCoulomb力を感じるという解釈になる。
また、この背後には遠隔作用と近接作用の大きな考え方の転換がある。元々は古代から、当然ながら近接作用の立場、すなわち物体が直接触れることで力が伝達されるという考え方が常識であった。しかし、17世紀にNewtonが発表したプリンキピアのインパクトは絶大だった。その後の力学の発展は目覚ましく、天体間に働く万有引力も次第に人々の常識となっていった。これは、物体の間に直接作用する遠隔作用の立場に基づいたものである。Coulombの法則が発見された18世紀には、この遠隔作用の考え方が浸透しており、物体に直接力が働くと考えることには何の抵抗もなかった。ここに、鋭い洞察力を持って現れた研究者がM. Faraday (ファラデー)である。Faradayは、電荷$q=0$のときにも、電荷$Q$が存在するとその周りには電気力線というものが伸びており、それが歪んだ状態になると考えた。これは、近接作用の考え方である。実際に2つの電荷を置いて、それらの間に働く力だけを考えていては遠隔作用と近接作用の考え方はただの好みの問題ともいえる。しかし、電場の存在が非常に重要で本質的であることは後に明らかになる。同様に磁石の力についても、磁場というものを考えることができる。
電場と磁場の実在を理解することは、電磁波の理解にとっても重要である。電磁波は、電場と磁場が相互に変化しながら空間を伝播する波動である。これにより、光や無線通信などの現象が説明される。電磁波の存在は、Maxwell方程式を通じて理論的に予測され、実験的にも確認された。これにより、電磁場が実在することが強く支持されたのである。
電場が存在するとしても、何もない空間が歪む状態を想像するのは当時の人々も苦労したようである。そこで、仮想的に歪む物質としてエーテル(ether)というものが考えられた。しかし、後にこのような物質の存在が許されないという考察によって特殊相対性理論が発見されることになるのである。とはいえ、学習の段階では、このような物質をイメージして理解することも大事なことである。
重ね合わせの原理
さて、ここまでは2つの電荷に限ったCoulombの法則しか議論してこなかったが、複数の電荷がある点電荷系$Q_1,Q_2,\dots,Q_n$の場合は一般に次のように表せる。
\begin{align}
\bm{E}(\bm{x})=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\sum_{i=1}^n \frac{Q_i (\bm{x}-\bm{z}_i)}{|\bm{x}-\bm{z}_i|^3}
\end{align}
すなわち、個々の電荷が作り出す電場の重ね合わせで全体の電場が表せる。これは決して自明なことではない。複数の電荷間で干渉を起こし、複雑な高次の寄与を生み出しても何ら不思議はない。しかし、電場においてはこの重ね合わせの原理が成立しているということを、実験結果が保証しているのである。
以上は、点電荷が複数ある場合の表式であるが、電荷が連続的に分布している場合には積分によって表せる。まず微小体積$\Delta^3 x_i:=\Delta x_i \Delta y_i \Delta z_i$の中の全電荷が$Q_i$となるように空間を分割する。ここで、電荷密度を$\rho(\bm{x}_i)$とすると、
\begin{align}
Q_i = \rho(\bm{x}_i)\Delta^3 x_i
\end{align}
と書ける。つまり、この段階で電場は次のように書ける。
\begin{align}
\bm{E}(\bm{x})=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\sum_{i=1}^n\rho_i \frac{(\bm{x}-\bm{x}_i)}{|\bm{x}-\bm{x}_i|^3}\Delta^3 x_i
\end{align}
更に、微小体積$\Delta^3 x_i\to 0$の極限をとることで積分にできる。
\begin{align}
\bm{E}(\bm{x})&=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\int_{-\infty}^\infty \mathrm{d} x’ \int_{-\infty}^\infty \mathrm{d} y’ \int_{-\infty}^\infty \mathrm{d} z’ \rho(x’,y’,z’) \frac{(\bm{x}-\bm{x}’)}{|\bm{x}-\bm{x}’|^3}\nonumber\\
&=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\int \mathrm{d}^3 x’ \rho(\bm{x’}) \frac{(\bm{x}-\bm{x}’)}{|\bm{x}-\bm{x}’|^3}
\end{align}
以上が、電荷密度分布$\rho(\bm{x})$が与えられたときにその周りに作り出す電場$\bm{E}(\bm{x})$の表式である。
ちなみに、点電荷系の場合には、デルタ関数$\delta(x)$を用いて、
\begin{align}
\rho(\bm{x})=\sum_{i=1}^n Q_i\delta^{(3)}(\bm{x}-\bm{z}_i)
\end{align}
と書けるため、
\begin{align}
\bm{E}(\bm{x})&=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\int \mathrm{d}^3 x’ \sum_{i=1}^n Q_i\delta^{(3)}(\bm{x}’-\bm{z}_i) \frac{(\bm{x}-\bm{x}’)}{|\bm{x}-\bm{x}’|^3}\nonumber\\
&=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0} \sum_{i=1}^n Q_i \frac{(\bm{x}-\bm{z}_i)}{|\bm{x}-\bm{z}_i|^3}
\end{align}
となり、式(\ref{eq: efield_point})と一致する。
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