先日、知人からレバレッジ3倍のETF (具体的にはSOXL)が暴落しているから、今買えば儲かるか?という相談がきた。私はレバレッジはハイリスクハイリターンだとは認識していたため、この知人にはおすすめしないしレバレッジは危険だということを知らせる方針で回答しようと考えた。しかし、よくよく考えてみたらなぜレバレッジは危険なのだろうか?ボラティリティが大きいのは理解できるが、それならこれまでのチャートをもとに下がったときに買えば、いつか大儲けできるのではないか?と思ってしまう。
その答えを探して、ネットで「レバレッジ 危険」などと調べると、長期保有には向いていないということを見つけた。これをもとに調べてみたら、たしかにレバレッジは短期保有目的ならハイリスクハイリターンであり、長期保有目的であればほぼ損をする見込みになるという結論に達した。このことを記録に残しておこうと、この記事を書くことに決めた。
はじめに
レバレッジETFとは、指数の値動きに対して2倍や3倍のリターンを目指す金融商品である。(株価)指数とは、取引所全体や特定の銘柄群の株価の動きを表すものであり、特定の企業ではなく業界全体の盛り上がりと連動して上下する。それが、実際の指数の変動に対して、2倍や3倍上下するため、ギャンブル性の高い金融商品になっている。
短期的に急騰する相場で利益を狙える魅力的な商品だが、「長期保有」という観点では減価という致命的な欠点が存在する。特に、指数が上下に変動する相場では、レバレッジETFは指数と比較して著しく不利なパフォーマンスを示すことがある。本稿では、レバレッジETFの仕組み、減価の理由、そして具体的な数値を用いた解説を通じて、なぜ長期保有に向かないのかを詳細に検証する。
レバレッジETFの基本構造
レバレッジETFは、原資産(指数や株価など)の日々の値動きに対して、あらかじめ定められた倍率(2倍、3倍など)のリターンを実現するように設計されている。例えば、SOXLであれば、ICE Semiconductor Index (半導体指数)が1日で+1%上昇した場合に、SOXLは+3%の値上がりを目指す。このような仕組みにより、短期的なトレンドに乗れば効率よく利益を得ることができる。
これはまさに、レバレッジはハイリスクハイリターンであることを意味しており、そのことは大半の人が理解しているであろう。
しかし注意すべきは、このレバレッジが「日次でリセットされる」という点である。ETFは毎日終値に基づいてポートフォリオを再構成するため、長期的には原指数の3倍にはならない。これは減価が理由である。
減価とは何か?
レバレッジETFにおいて、頻繁に話題となるのが「減価」という現象である。これは、指数が横ばいあるいは変動を繰り返すだけで、ETFの基準価額が徐々に下落していく現象を指す。主な原因は、日次でレバレッジをかけて複利的に価格が変動することである。
次に、単純な数値例でその影響を確認してみよう。以下は、ある日を基準日(Day 0)として、その翌日に20%下落し、さらにその翌日にはその下落した分が元に戻る場合の例である。
日 | ICE半導体指数価格 (元の指数) | 指数変化率 (元の指数) | SOXL価格 (レバレッジ3倍) | 指数変化率 (レバレッジ3倍) |
---|---|---|---|---|
Day0 (基準) | 100 | – | 100 | – |
Day1 | 80 | -20% | 40 | -60% |
Day2 | 100 | +25% | 70 | +75% |
元指数の動きから追っていくと、まずDay1に20%下落して指数が80に変わり、その翌日にはまた元の指数に戻っているのだが、その変化率は80→100なので+25%である。この日々の指数変化率に対して3倍を目指しているのがレバレッジ3倍であった。この目論見通りにいったとすれば、Day1では-60%、Day2では+75%と日々変動するはずである。このとき、基準のDay0に持っていた価格が100であるとしたら、Day2にはもとには戻っておらず70まで下落している。すでにこれだけで30%の損失である。この「損失」は、上下変動の中で複利計算が不利に働くために生じる。この現象は「ボラティリティ・ドラッグ(volatility drag)」とも呼ばれ、変動幅が大きいほど損失が大きくなる。
しかし、この現象は今の例だと先に20%下がってからもとに戻ったためであると考えるかもしれない。では逆に最初に+20%上がって、翌日もとに戻った場合を考えてみよう。
日 | ICE半導体指数価格 (元の指数) | 指数変化率 (元の指数) | SOXL価格 (レバレッジ3倍) | 指数変化率 (レバレッジ3倍) |
---|---|---|---|---|
Day0 (基準) | 100 | – | 100 | – |
Day1 | 120 | +20% | 160 | +60% |
Day2 | 100 | -16.7% | 80 | -50% |
この場合でも結果的には損をするようにできている。
この簡単なデモンストレーションで疑問が残るとしたら、Day0の決め方だろうか。しかし、レバレッジはその仕組み上、日々の変動を考えているだけなので、これまでの価格履歴すなわちチャートとは無関係である。一方で元の指数は、これまでの価格というものにも一定の意味を持つため、その指数の値動きをもとに上記のような計算をしてみるとよいだろう。
長期保有で損をする理由
レバレッジETFを長期保有すると、次のようなデメリットが生じる:
- 減価
すでに説明した通り、上下の変動が繰り返されるほど、価格は減価していく。 - 手数料
レバレッジETFは通常のETFよりも経費率が高い(年間1%前後が多い)。長期になるほどコストが効いてくる。 - リスクの増幅
レバレッジがかかっているため、小さな下落でも大きな損失になる。 - トレンドがないと不利
横ばい or ボラティリティが高いだけの相場では不利。長期で右肩上がりのトレンドが続いてはじめて報われるが、その保証はない。
一方で、上記の3番は逆にレバレッジがかかっていることで小さな上昇の場合は大きな利益となり得る。ここがレバレッジETFが金融商品として成り立つ理由であろう。
まとめ
結局のところ、レバレッジETFに関しては、過去に比べて現在暴落しているから割安のような概念はなく、といって将来上昇するかどうかは日々変動によってのみ決まるということである。これはただのギャンブルに他ならないだろう。
まとめると、レバレッジETFは短期的に保有するのであればギャンブル、長期的に保有するのであれば日々の変動で徐々に減価により損をするということである。
私は長期保有を基本投資方針にしているためレバレッジETFは今後も買う予定はない。しかし、特にギャンブル自体を否定するわけではなく、他の公営ギャンブルに比べたら期待値が大きいという意見もあるかもしれない。ただし少なくとも、このことは理解した上でやるべきだろう。くれぐれも投機的に大金をつぎこまないように注意していただきたい。
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