目的
本記事の目的は、「我が家の家計簿を簿記の知識を活用して会社のように記録する」ことで、日々の生活費や資産の流れをより体系的に把握する方法を示すことである。
家計簿を単純に現金や預金の増減だけで管理すると、特にクレジットカード払いやプリペイド、ポイント利用などにより、実際の資産状況が分かりにくくなることがある。簿記の枠組みを使ってB/S(貸借対照表)とP/L(損益計算書)を作成すれば、どのタイミングで見ても家庭の財務状況を正確に把握できるという利点がある。
これはあくまで会計の厳密な制度運用ではなく、簿記を勉強する一環として、また家庭内のお金の動きを正確に管理する手段として実践している。したがって、実際の個人事業主や法人会計とは異なる点もあるため、注意していただきたい。しかし、教育的・実務的な効果は十分にあると考えている。
始め方、運用方法
私は、Paciolistというスマホのアプリを利用している。こちらのアプリでは、仕訳を入力すれば自動的にB/SおよびP/Lを作成できるため非常に便利である。しかし、家計簿の範疇であれば、それほど仕訳の種類も多くないため、自作でエクセルの表をつくる程度でも十分である。また、他の簿記アプリでも本記事の内容は応用できるはずである。
勘定科目の方針
実際の日々の取引を仕訳する際には、一般の会社の会計と照らし合わせてどの勘定科目を適用するかを考えるのが最も頭を使うところである。
私が実践している方針としては、先述の通り、「我が家の家計簿を会社のように記録する」ことである。つまり、我が家を会社と見立てて、生活費は社員である家族が労働するための費用であり、それをもとに家族が労働することで給料として収入を発生させて利益をあげていると考える。このような事業スタイルの会社であると見立てて、一般の会計における勘定科目を日々の活動に当てはめていく。
生活費の処理
以下は実際に使用している勘定科目の例として、費用の内訳を示した。支出の内容によって勘定科目を柔軟に使い分ける。
支出内容 | 勘定科目(借方) | 大区分 | 中区分 | 備考 |
---|---|---|---|---|
食費 | 食費 | 販管費 | – | 社員の食事という位置づけで費用計上 |
日用品 | 消耗品費 | 販管費 | – | 実態に応じて判断 |
教育費 | 採用教育費 | 販管費 | – | 社員育成目的で明確に分類 |
娯楽 | 福利厚生費 | 販管費 | – | 家族のQOL向上目的 |
家賃 | 住居費 | 販管費 | – | 通常の家賃支出 |
光熱費 | 水道光熱費 | 販管費 | – | 通常通りの分類 |
通信費(スマホ代など) | 通信費 | 販管費 | – | 継続的な通信費用として |
衣料品 | 消耗品費 | 販管費 | – | 日常使用目的ならこの分類で可 |
医薬品 | 医療費 | 販管費 | – | 必要性の高さによっては変更可 |
サブスク | 福利厚生費 | 販管費 | – | 娯楽に近い性質で分類 |
自動車費用 | 車両費 | 販管費 | – | 燃料、保険、車検など含む |
以上で、日常的な支出の大部分を網羅していると思われる。このうち、食費、住居費、医療費だけは家計簿用にオリジナルにつくった勘定科目である。ここは考え方によって、福利厚生費や雑費などとしてもよいのだが、私は家計簿としてはこれらの内訳も重要で気になるところなのであえて分けている。または事業主貸として社員のプライベート費用とみなせばよいかもしれないが、先述の通り生活費は収入を得るための費用であるため、あくまで経費として計上している (もちろん個人事業主としては通用しないので、家計簿における取り扱いである)。
以上の考え方に従うと、旅行や飲み会などの娯楽は、社員である家族のQOL向上ということで福利厚生費がよいと考える。また、サブスクも同様に福利厚生費としている。その他は、ある程度納得感のある対応だと思われる。
クレジットカード・プリペイド・ポイントの処理
さて、実際の支払いのところは、支払い方法に応じて使い分けが必要である。すべて現金をタンス預金しておいて、支払いがすべて現金であれば話は単純である。しかし、実際にはクレジットカードで支払えば、支払ったことになっただけで現実のお金の移動はない。その代わり、1~2か月後の支払い日にまとめて銀行から引き落とされる。これは、家計簿でいうと、負債にあたるだろう。
以上のことを踏まえて、支払い手段に応じて以下のように勘定科目を使い分ける。
支払手段 | 勘定科目(貸方) | 大区分 | 中区分 | コメント |
現金 | 現金 | 流動資産 | 当座資金 | 通常の現金支出 |
銀行口座(普通預金) | 普通預金 | 流動資産 | 当座資金 | 電子マネー・振込等に使用 |
クレジットカード | 未払金 | 流動負債 | – | 実際の支払は後日なので負債処理 |
プリペイド(楽天キャッシュなど) | 仮払金 | 流動資産 | – | チャージ時に記録、支払時は消し込み |
ポイント(少額) | 雑収入 or 調整なし | 営業外収益 | – | 実務上は無視または雑収入に |
まず、現金と銀行口座は問題ないだろう。ただし、銀行口座については、複数口座をまとめて1つとみなしている。そのため、銀行間のお金の移動は記録していない。
次にクレジットカードについては、先に述べたように流動負債の未払金として取り扱っている。つまり、クレジットカードでの支払いの際には、「未払金」の負債が増加したと考える。
#クレジットカードの支払い時
(借)食費 1,000 /(貸)未払金 1,000
そして、クレジットカードの引き落とし日には、「普通預金」が減少し、「未払金」も返済したことで減少すると考える。
#クレジットカードの引き落とし時
(借)未払金 1,000 /(貸)普通預金 1,000
次に、楽天キャッシュやPayPay、Suicaなどのプリペイド型の決済である。こちらは先にチャージをしたタイミングで、資産の種類が変わる。チャージされているお金が「仮払金」として扱う。
#プリペイドのチャージ時
(借)仮払金 10,000 /(貸)普通預金 10,000
そして、支払いの際には「仮払金」から支払えばよい。
#プリペイドの支払い時
(借)食費 1,000 /(貸)仮払金 1,000
最後にポイントについては、毎回の記録は現実的でないため、月末や決算時に全体で調整するか、基本的には無視してもよい。まとめて月末に付与されるタイプのポイントは、雑収入として記録すればよい。それ以外に、毎回支払いタイミングごとに数ポイントずつ入り、支払い時に毎回ポイントを使うようであれば、ポイント分は値引いて実際の支払額だけを記録するという方針でよいと考える。
収入の処理
給料収入は、「売上」と同じ扱いで「給料」や「賞与」として計上する。これらは、我が家のメイン事業による収益のため営業利益で計算されるべき項目である。
一方で、先ほどのポイントなどで増えた分は、営業外収益として得るものなので、雑収入などでよいと考える。これらも合わせた収益は、経常利益として計算されるべきである。
給料の項目の中でも、社会保険や税金、給料から天引きの支払いはすでに控除されて手取り額が決まっているはずである。これらを正確に記載してもよいが、私はあまりに記載が煩雑だと続かなくなるため、手取り額を収入として1つで計上してしまっている。家計簿においては、税引前当期純利益などを計算しても虚しくなるだけなので…
投資有価証券の取扱い
最後に投資を行っている方は、こちらも取引に含めるべきであろう。株券などは、有価証券として扱うが、流動資産としての「有価証券」と固定資産としての「投資有価証券」の2種類がある。満期目的で保有するものなどで1年以上保有することが前提のものが固定資産であり、それ以外は流動資産と考えてよいだろう。すなわち、個人で保有する株式や投資信託などは、一般に流動資産としての「有価証券」に分類でよいと考える。その中で満期目的の債権などは固有資産として分けてもよいが、そこは各自で応用していただきたい。1つ提案するのであれば、NISA関係の投資は流動資産として扱い、iDeCoや企業型DCのマッチング拠出などは固定資産として取り扱うのはよいかもしれない。iDeCo関係は原則60歳まで引き出せないので、固定資産として扱うのがよいだろう。しかし、私の場合はこのような資産は日々の家計としては不要な情報のため、無視している。そもそも、手取り額しか収入として考えていないため、マッチング拠出分は失ったとみなしている。
さて、有価証券の記録の際には、評価損益や為替損益に注意が必要である。
私の評価方法は以下である:
- 取得時に取得原価で記録
- 時価評価は行わない(評価損益は記録せず)
- 売却時に実現利益として「有価証券売却益」等を計上
- 配当金は受取時点で日本円に換算して「配当金収入」として記録
- 外貨での受取(ドルなど)の場合は、日本円に換金した時点で収入として記録
損益の評価は毎回行わないことで記録の煩雑さを回避する。しかし、大きく変動した際などは、一般の会計基準に従って、取得原価の50%だけ上下した際には特別損益として計上した方がよいだろう。そうすることで、現実の資産との乖離を最小限に抑えられる。本来は、決算のタイミングで、評価損益も記録すれば正確に家計の状況を把握できる。
おわりに
このように、家庭内の経済活動を簿記の視点で記録することで、生活費の透明性が高まり、将来の見通しや意思決定も理論的に行えるようになる。また、日々の仕訳を通じて簿記の理解も深まるため、勉強のモチベーション維持にもつながる。
単なる家計簿ではなく、会社のように家庭を運営する。その感覚が家計の見える化と資産形成の第一歩となるだろう。
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