$\bm{E}$-$\bm{B}$対応
ここで改めて誘電体中の電場の取り扱いと、磁性体中の磁場の取り扱いについて比較する。
ここでようやく$\bm{E}$-$\bm{H}$対応と$\bm{E}$-$\bm{B}$対応についての議論ができる。$\bm{E}$-$\bm{B}$対応とは、$\bm{E}$と$\bm{B}$を基本的な場として、$\bm{D}$と$\bm{H}$は、
\begin{align}
\bm{H}(\bm{x})&=\frac{1}{\mu_0}\bm{B}(\bm{x})-\frac{1}{\mu_0}\bm{M}(\bm{x}),\\
\bm{D}(\bm{x})&=\varepsilon_0 \bm{E}(\bm{x})+\bm{P}(\bm{x})
\end{align}
によって決まる補助的な場として扱うということである。むしろ対称性が悪化するようなこの選び方を採用する理由は大きく分けて2つある。まず1つは特殊相対性理論に進んで電磁気学を取り扱うときに相性が良いということである。$\bm{E}$と$\bm{B}$を用いて電磁場テンソルを定義して反対称テンソル場として扱うことができる。
そしてもう1つは、物理現象に基づいて電磁気学を記述するにはより本質的な場である$\bm{E}$と$\bm{B}$を用いるべきであるという思想からである。磁場の強さ$\bm{H}$とは電荷の場合と同様に、磁荷が存在するものと仮定して導入されるもののため仮想的な場である。磁場の場合には磁荷が存在しないために、磁場をつくる基本的な源は電流と考えられるのであった。この電流がつくるものは磁束密度あるいは単に磁場$\bm{B}$であった。そして、このことと関連して実際に測定できるものは$\bm{E}$と$\bm{B}$であり、補助的な場である$\bm{D}$と$\bm{H}$は物質によらずに源によってつくられる仮想的なものである。
このことを、誘電体と磁性体を思い出しながら考えよう。
まず電束密度$\bm{D}$とは、真電荷$\rho_\mathrm{e}$によってのみ決まる場であり、磁場の強さ$\bm{H}$は伝導電流$\bm{i}_\mathrm{e}$によってのみ決まる場である。すなわち物質には依存しない。そこに誘電体あるいは磁性体を置くことによって、電場$\bm{E}$は弱められ、磁場$\bm{B}$は強め(弱め)られる。この意味で、物質中においては特に$\bm{E}$と$\bm{B}$が本質的であるといえる。
物理学の立場としては、物質によらず普遍的な量である$\bm{D}$と$\bm{H}$が本質的といえるのではないか、と考えることもできる気がする。しかし、それでは置いた電荷(真電荷)や流した電流(伝導電流)によってつくられる場を計算できるだけで、実際には物質の効果により弱められたり強められたりしたものが観測されることになる。その場合、計算によって得られた$\bm{D}$や$\bm{H}$はただ電荷や電流を別の量に換算して言い換えただけであり、得られるものが少ない。よって、真空中および物質中において電磁場を表すためには、やはり$\bm{E}$と$\bm{B}$を基本的な場として取り扱うのがよいだろうということになる。
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