iDeCo改悪2025の影響

その他

2024年12月20日に決定した令和7年度の税制改正大綱において、iDeCo「個人型確定拠出年金」の改悪が盛り込まれた。iDeCoだけが話題となっているが、当然ながら企業型DC「企業型確定拠出年金」も同様に改悪されたことになる。

本記事の結論を先取り

令和7年度の税制改正大綱において、iDeCoの出口戦略で言われていた通称5年ルールが変更され、10年ルールとなった。つまり、iDeCoを一時金として先に受け取ってから、退職金を受け取るには10年以上あけないと、退職所得控除が復活しない。iDeCoは原則60歳にならないと受け取れないため、iDeCoに退職所得控除を満額適用したければ70歳まで退職できないことになり、実質不可能となった。ちなみに、受取の順番によってこの期間は以下の通りになる。
iDeCo(一時金)⇒退職金の順:5年ルール→10年ルールに改悪
退職金⇒iDeCo(一時金)の順:19年ルール

iDeCoと企業型DCの基本的な解説

まず、iDeCoとは、以下の英語名称からとったものである。

individual-type Defined Contribution pension plan (=iDeCo, 個人型確定拠出年金)

pensionは年金を表すが、Defined Contributionが通称DCと呼ばれる確定拠出年金である。通常の年金は収入に応じて支払う金額が変動するが、DCでは確定拠出(Defined Contribution = 決まった寄付額)であるため毎月の支払額が固定である。もちろん、この金額は一定の範囲内で自由に決めることはできる。それを個人でやれば、individual-typeであり、すなわち個人型である。また、会社員が会社を通してやれば、企業型DCということになる。基本的な仕組みとしては、確定拠出年金として共通である。ただし、企業型DCは掛金を会社が支払うものだが、マッチング拠出を選択することで個人の掛金も追加することができる。この部分はiDeCoと全く同じである。以下では代表としてiDeCoで話を進めるが、企業型DCのマッチング拠出の話と共通である。また、マッチング拠出をしていない場合には、個人の掛金はないが、受取だけの議論でいうと共通になる。

iDeCoは、一般的な公的年金を義務として納めつつ、付加的に個人の意思で“年金”を支払うものである。年金は老後に決まった金額が支給されるが、iDeCoはユーザー側から見れば自分の好きなファンド(投資先)を選んで投資をしているようなものである。公的年金も、年金団体がその集めた資金を元手に資産運用しているのだが、それを各自で行うというのが基本的な仕組みである。投資先はある程度決まっているが、その範囲内で自由に選ぶことができる。通常の投資と異なる点は、これが“年金”であるために老後(=原則60歳)にならないと受け取れない点である。それなら、NISAの方が良いのではと思える。NISAはたしかに利益に対して非課税であるが、iDeCoは“年金”であるためその掛金が所得控除され節税になる。公的年金も社会保険料控除として節税になっているので同じである。なるほど、NISAとはうまく差別化されており、どちらも一長一短な仕組みになっている。

iDeCoの特徴を、NISAと比較して次の表にまとめた。

iDeCoNISA
掛金全額所得控除通常の出費
現金化のタイミング受取は原則60歳以上いつでも
運用中の利益(配当金など)非課税非課税
受取時の利益非課税ではない非課税

NISAと並んでiDeCoも利益が非課税でお得という宣伝文句をよく見かけるが、それは運用中の利益であることに注意が必要である。これは、至極当然のことであって、全くお得ではない。逆に運用中の利益に課税される方が不自然である。なぜなら、iDeCoは60歳になるまで現金として受け取れないし、受取時の利益からはしっかりと税金が引かれるからである。運用中の利益は通常の株券などでいうと配当金であって、現金で例えば1000円もらったら約20%が税金として引かれて実際に受け取るのは800円であるというものである。iDeCoは仕組み上60歳まで現金を1円たりとも受け取らないのに、運用中の利益が発生したため約20%分は毎年支払ってくださいね、では誰もやりたがらないだろう。実際、受取時に利益があればそれに対して税金が約20%かかるため、現金化するタイミングで後からまとめて税金は払うことになる。

ただし、これではiDeCoでは掛金が非課税になるだけで、その他のメリットが全くなさそうである。その救済措置(?)として、受取時には2種類の受取方法が用意されており、うまく受け取れば税金が一部控除されるようになっている。今回、改悪とされているのはこの部分の制限が厳しくなった点である。

iDeCo改悪2025の詳細

令和7年度の税制改正大綱において、iDeCoの受取時に関して改悪があった。

先述の通り、iDeCoには2種類の受取方法がある。

  • 年金として受け取る
  • 一時金として受け取る


年金として受け取る場合は、通常の公的年金と一緒に追加の年金として受け取ることになる。公的年金は「雑所得」の扱いとなり、給与ではない形で収入を得たことと同じ意味になり、しっかりと課税される(遺族年金と障害年金は非課税だが、一般的に老後に受け取る老齢年金を対象としている)。iDeCoも、年金として受け取る場合には、この「雑所得」に分類されることになる。所得税は累進課税になっているため、税率は収入の多さによって決まる。

一方で、一時金として受け取る場合には、特別に退職金控除を利用できる。実はここがiDeCoの隠れたメリットであった。退職金控除とは、通常は企業に勤めて退職する際に、勤続年数に応じて退職金の一部ないしはすべてを控除し、課税対象とはしないためのものである。退職金と退職金控除は金額も非常に大きく、インパクトが大きい。

退職金として収入があったとき、退職所得は次のように計算される(国税庁のリンク)。

退職所得

(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額

このうち、退職所得控除は勤続年数(T年とする)に応じて、勤続年数20年を境に次のように決まる。

退職所得控除

T<=20のとき、40万円 × T (80万円に満たない場合には、80万円)
T > 20のとき、800万円 + 70万円 × (T – 20)
ちなみに、T=20のとき、どちらの式も800万円となり滑らかにつながる。

例えば、勤続年数40年で退職して退職金2000万円を受け取った場合、退職所得控除額は2200万円であり、退職所得は0円である。つまり、退職金2000万円が非課税で受け取れる。退職所得控除は金額も大きく、我々にとって非常に重要なものであることが分かるだろう。

iDeCoを一時金として受け取る場合には、この退職金控除を適用できるのだが、それには制限がある。それが、これまで通称5年ルールと呼ばれていたものである。

iDeCoを一時金として先に受け取り、その後に退職金を受け取る場合には、その間が5年以上開けていれば退職所得控除が復活するというルールである。令和7年度の税制改正大綱によって、この5年以上という制限が、10年以上に変わる。つまり、10年ルールに変わる。

これは明らかな改悪である。これまでは、現実的なモデルケースとして、60歳でiDeCoが受け取れるタイミングになって最速で一時金として受け取り、65歳で退職金を受け取れば恩恵が最大限得られた。しかし、これが10年間に変更されると、70歳まで退職できないことになる。

それでは逆に、退職金を先に受け取ってから、その後iDeCoを一時金として受け取ればよいのではと思うだろう。しかし、これについては先に封じられており19年ルールになっている。つまり、60歳で退職金を受け取ったら、iDeCoで恩恵を受けるのは79歳からになる。こちらは現実的ではないため、あまり検討する人もいないだろう。とはいえ、もし宝くじでも当たったら、45歳で退職して65歳でiDeCoを受け取ればよいので、そのときのために一応心に留めておこう。

iDeCo(一時金)⇒退職金の順:5年ルール→10年ルールに改悪
退職金⇒iDeCo(一時金)の順:19年ルール

今後の運用方針はどうすべきか?

今回の例でも分かったように、すでに掛金を支払い現金化が不可能なiDeCoでさえも政府はいつでもルール変更できる。この10年ルールも永久にこのままであるとは考えにくい。しかし、現状としては何もしないよりは掛金で節税できている分だけ得はしている。iDeCoをやるくらいなら、NISAで利益を上げた方がよいという意見もある。しかし、これらは性格の異なるものであり、ケースバイケースなため一概には言い切れない。

投資の大原則は分散投資であり、リスクを分散させることで、どれかで損をしても他で得をして結果的にプラマイゼロならOKくらいの気持ちで我が家では投資方針を決めている。現状、iDeCoの掛金には限度額が設定されており、それほど大きな掛金にはなりにくい。損をするか、得をするかは分からないが、余裕資金の一部を分散投資の1つとして入れておいても悪くないのではないだろうか。

今後の政府の動きにも注目し、なるべく最適な投資判断ができるようにしたい。

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